HAL財団

「家業」から「地域企業」へ

WEB版HALだより「テキスト版」

2023年7月28日号(通算23-16号)

『~短期集中レポート~“農業で学ぶ”小学校における「農業科」教育の道を拓く挑戦』を書籍にしました。

2023年5月から連載を開始した『~短期集中レポート~“農業で学ぶ”小学校における「農業科」教育の道を拓く挑戦』を1冊の本にまとめました。

こちらのWEB上で見られるコーナーと電子書籍形式、さらに印刷用のPDFを用意しています。

電子書籍URL: https://www.hal.or.jp/wp-content/uploads/ebooks/20230728_document-report/HTML5/sd.html

印刷用PDF: https://www.hal.or.jp/wp-content/uploads/ebooks/20230728_document-report.pdf

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1447/

2023年7月19日号(通算23-15号)

事務所移転のお知らせ

HAL財団は、本部事務所を以下の所在地に移転しますので、お知らせいたします。
新事務所は地下鉄東西線西11丁目駅から徒歩1分と、今まで以上に利便性の良い場所になります。どうぞお気軽にお立ち寄りください。

■移転先所在地
〒060-0042
札幌市中央区大通西11丁目4-22
第2大通藤井ビル 4階

■電話
011-233-0131

■FAX
011-206-8100

■移転先での業務開始日
2023年8月1日(火)から
※現所在地での業務は、2023年7月27日(木)をもって終了いたします。

■移転先案内図

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1436/

2023年7月18日号(通算23-14号)

~短期集中レポート~ “農業で学ぶ” 小学校における「農業科」教育の道を拓く挑戦(10)

磯田 憲 一

2023年5月16日、美唄市役所で開かれた記者発表の場で、板東知文美唄市長、そして石塚教育長から正式に小学校における「農業科」授業のスタートが正式発表されました。従来発想を乗り越え、新しい取り組みの扉を開けることは、どのような分野であっても、勇気とエネルギーのいることですが、美唄市、そして美唄市教育委員会は、子どもたちたちの「生きる力」は勿論、多様な生命に対する敬愛の思いを育むことの大切さを深く認識し、北海道では初めて、全国でも二例目という先駆的取り組みをスタートさせることになりました。
 中村桂子さんの「農業科」教育への深い思いと、美唄市、美唄市教育委員会の挑戦を繋ぐ役割をささやかながら果たしてきたHAL財団の立場で、板東市長の記者発表に同席し「農業科」教育の推進をサポートしていく思いを、次のように申し述べさせていただきました。
 
 『板東市長、石塚教育長から説明のあった、美唄市内の小学校のカリキュラムに「農業科」を組み入れるという決断は、まさに北海道農業に新しい季節、新しい春を呼ぶチャレンジと言えるものです。
 福島県喜多方市長の時代感覚の鋭さ、そしてその喜多方市長に一歩を踏み出させた中村桂子さんの、時代を透徹した感性、それらがなければ、日本における小学校の「農業科」教育の旅立ちはありませんでした。
 中村桂子さんは、SDGsなどという流行語が生まれる遥か前から、生きものとしての人間の「在りよう」を語り続けてきた方です。中村桂子さんが語り継いできた感性と言葉に、時代がやっと追いついてきたのです。中村さんは、「生態系のトップにいるような錯覚から生まれる“上から目線”ではなく、生きものとしての“中から目線”が大切」と語り続けてこられました。その中村さんとの不思議なご縁や、喜多方市の優れた取り組みとの出会いが、13年の歳月を超えて、この北の大地・北海道に「知恵のバトン」が辿り着きました。
 
 明治2年(1869年)に北海道開拓使が置かれ、本格的な農地開拓が始まって154年。今や北海道は食糧基地の役割を果たすまでになりましたが「北海道は農業が基幹産業」と標榜しながら、人間教育のスタート時とも言うべき小学校教育に「農業」の持つ力を学ぶ「農業科」を組み込む発想は、これまで農業や教育を担う機関からは勿論、農業界からも出てくることはありませんでした。
 しかし、昨年夏、中村さんから的確で普遍的なアドバイスをいただき、北海道で初めての「農業科」教育が、この美唄から始まることになりました。

 中村桂子さんは「農業科は、子どもたちの“生きる力”を引き出す。日本中の小学校に農業科ができたら、日本はすばらしい国になるでしょう」と語り続けてこられました。そして多くの方も、これからは「農業の時代」だと指摘しています。しかし、それは、生きる上で食糧確保が何より大事、という意味だけでなく、地球環境が困難な時代を迎えている今、生きものとしての人間が、生きる仲間たちの生命をいただくことで支えられていることを深く認識し、生きものとして踏まえるべきものを学ぶという意味も含めた「農業の時代」でありたいと思います。

  (写真提供 美唄市教育委員会)

美唄市が「農業科」教育をスタートさせたからといって、そうした時代が直ちに実現するような容易い道のりではありません。しかし、千里の道も一歩からです。美唄市のチャレンジが確かな道のりへの第一歩となり、いつの日か、北海道全体の「スタンダード」になることを心から願っています。
 その思いを込めて、HAL財団の中に、今日を期して、「“農業で学ぶ教育”の輪をつなぐサポートチーム」を設置いたしました。このチームの活動を通じて、美唄市、美唄市教育委員会が進める小学校における「農業科」教育という「美唄モデル」の輪を、北海道だけでなく日本各地に広げていく活動に取り組んでいきたいと思います。このチームには、中村桂子さんも、心からの喜びを持って参加してくださいました。共に手を携えて「農業“で”学ぶ」輪を広げて参ります。
ご理解とお力添えをどうぞよろしくお願いいたします』

(完)

(注:肩書は当時のもの)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1430/

2023年7月11日号(通算23-13号)

~短期集中レポート~ “農業で学ぶ” 小学校における「農業科」教育の道を拓く挑戦(9)

磯田 憲 一

明治2年に「開拓使」が設置されて以降、農地開拓や農業開発が営々と続けられ、今や農業を基幹産業とする北海道。しかし、154年此の方、今日に至るまで、どこからも、誰からも発意されることなく、実現されることのなかった小学校での「農業科」教育が、穀倉地帯の一角・美唄市で始まることになりました。農業王国を謳う北海道で、「農業」の秘める“もう一つ価値”に新たな光が当たる取り組みがスタートしたのです。「農業“を”学ぶ」取り組みは、これまでもさまざまな場と形で行われてきましたが、その枠を超えて、生きものの一つという事実の上に立ち、「農業“で”学ぶ」ことを通して、この地球を持続可能な社会とするための遥かなる道のりに向けた、小さな自治体の大きな挑戦と言えるでしょう。未来から振り返ってみると、「百年の計」に連なる確かな歩みの一歩だったと語り継がれていくに違いありません。
 
2023年5月16日、美唄市の板東知文市長が記者会見を行い、美唄の未来を切り拓く思いを込めて、北海道で初めての小学校における「農業科」授業のスタートと「農業科読本」の発行を正式発表しました。板東市長の発言の概略を報告したいと思います。
 
『私が美唄市の教育長だった時、農業の持つ力を次代を担う子どもたちに伝えていきたいとの思いで、2010年度から「小学校農業体験学習」をスタートさせ、「農業体験学習副読本」も作成しました。それは、福島県喜多方市の先駆的な取り組みを知ったことが契機でした。喜多方市は、2007年から、小学校で「農業科」授業をスタートさせました。喜多方市が日本初の「農業科」に取り組んだのは、生命科学の第一人者として「生命誌研究」を構想した中村桂子さんが、「人間は生きものであり自然の一部」という事実をもとに、「子どもたちが、生きることの本質を学ぶ機会として、“小学校で農業を必須に…”」と提唱したことを受け、その熱い思いに共感した当時の喜多方市長が、「農業科」を小学校教育に組み込んだのです。

 その中村桂子さんが、昨年(2022年)8月、美唄市内の「アルテピアッツァ美唄」で講演される機会があり、その折、前述したように、中村さんから「農業の体験学習は今や一般的だが、あくまで体験の域にとどまる。学校の時間割の中に、国語、算数、理科などと同じように“農業”と明記されていることが大切で、そのことで、子どもたちの心に“農業”への思いが刻まれる」という貴重なアドバイスをいただきました。

 中村さんの次代を見据えた的確なアドバイスを踏まえ、美唄市としては、今年度から小学校の授業時間割の中に「農業科」を組み込み、継続的に「農業で学ぶ」取り組みを進めていくことにしました。また改訂版づくりを進めていた「副読本」についても、“副”を取り、「農業科“読本”」として発行し、「農業科」授業を進めていく手立てとしての役割をより明確にしました。
 今回発行した「農業科読本」の第一章に、美唄の子どもたちに向けて「あなたが生きものであることを学ぶ農業」と題した中村桂子さんのメッセージを掲載することができました。今を生きる全ての人たちの心にも届けられるべき、深いスピリットに満ちていると感じます。
 この読本に基づく「農業科」授業を通して、子どもたちの心に、この地球に生きる上での謙虚さ、同じ生きものである仲間たちに向けた優しい眼差し。さらに、その学びを通して美唄の子どもたちの胸に、この美唄、そして北海道に育ち暮らした「誇り」がゆっくり湧き上がってくることを信じたいと思います」。

私が教育長であった時代にスタートした「農業体験学習」、「副読本」が、13年の歳月を経て、「農業科」そして「農業科読本」へと進化し、全国でも類い稀な先駆的取り組みとして新たなスタートを切ることになったことは、美唄市の未来に向けた地域づくりにとって、大きな意味と価値を持つと考えます。
 「農業科」の推進に先駆的に取り組み、大きな成果を上げている福島県喜多方市とも連携の輪を広げ、「農業の時代」と言われている今日、農業の持つ根源的価値を深めていく役割を果たしていきたいと思います』

2023年5月16日(火)美唄市役所での記者発表模様
 (写真提供 美唄市教育委員会)

(注:肩書は当時のもの)

  (第10号に続く)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1423/

2023年7月4日号(通算23-12号)

〜短期集中レポート〜 “農業で学ぶ” 小学校における「農業科」教育の道を拓く挑戦 (8)

磯田 憲 一

 編集委員会の皆さんの尽力と、関係者の願いが実り、2023年4月下旬、「美唄市小学校農業科読本」がついに完成しました。

 その「読本」の最初のページに、第一章として美唄市小学校農業科読本編集委員会特別アドバイザーの立場で中村桂子さんが執筆した「あなたが生きものであることを学ぶ農業」と題するメッセージが掲載されました。優しさに充ちた言葉で、生きものの一つとしての私たち人間の在りようを綴り、「生きものはみんな仲間ということがわかってくると、たくさんの仲間と一緒に生きていくことが楽しくなってくるに違いない」と語りかけています。

 そして、「農業科」で“農業で学ぶ”ことの意義を、中村桂子さんはメッセージの中で次のように語っています。「農業科は、自分で食べものを作って自立して生きていく力をつけると同時に、人間同士はもちろん、全ての生きものがつながった仲間であり、みんなで支え合いながら生きていくことが大事だということを学べる楽しい時間です…」

 中村桂子さんが語られているように“農業で学ぶ”のは、生きものとしての仲間を大切にする心であり、さまざまな生きものに支えられて生きている“つながり”の心だとすれば、「農業科」という取り組みは、仲間としての生きものに感謝する心を「農業」を通して身に染み込ませていく場とも言っていいと思います。

 そうした意味からも、美唄市、美唄市教育委員会が、「時間割」の中に「農業科」を組み込み“農業で学ぶ”場をスタートさせることは「農」の大地・北海道を未来から振り返ってみた時、その意味するものは深く、画期的なものであったと実感することになるに違いありません。

 そうした思いを共有し「北海道農業に新しい春(HAL)の息吹を…」の願いを込め、2022年4月に思い新たに再スタートしたHAL財団は、美唄が進める「農業科」の伸展を支えるとともに、その輪を各地域につないでいく役割を果たしていきたいと考えています。

 そのための推進チームとして、HAL財団内に「“農業で学ぶ教育”の輪をつなぐサポートチーム」を設置することにしました。

 このサポートチーム設置には、中村桂子さんも賛成、共感してくださり、チームの一員(特別顧問)として参加していただくことになりました。嬉しく、ありがたいことです。

 サポートチームは、当面次のようなメンバーで構成し、取り組みを進めていくことにします。

「“農業で学ぶ教育”の輪をつなぐサポートチーム」
特別顧問 中村桂子(JT生命誌研究館名誉館長)
代表   磯田憲一(一般財団法人HAL財団理事長)
田尻忠三(一般財団法人HAL財団常務理事)
村上孝徳(美唄市教育委員会教育部長)
羽深久夫(美唄市教育委員会特別アドバイザー)
(メンバーは、状況に応じ、随時必要な方に参加いただきます)

(注:肩書は当時のもの)

 (第9号に続く)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1417/

2023年6月27日号(通算23-11号)

~短期集中レポート~ “農業で学ぶ” 小学校における「農業科」教育の道を拓く挑戦(7)

磯田 憲 一

 2022年11月15日~16日の日程で喜多方市を訪問し、喜多方市長や教育行政を担う方々と意見交換の時間を持ったことを中村桂子さんに報告しました。すると、次のような励ましの連絡をいただきました。
 
「素敵な報告をありがとうございます。みなさんが真剣に取り組んでいる様子が目に浮かびます。社会の動きは不安定で未来が危うく感じられる時がありますが、みなさんが、今、進めているような活動が子どもたちの生きる力を育て、未来につながるに違いないと思います。仲間に入れていただきますことを幸せに思っています。美唄の活動が本格化することを願いながら、改訂版のお手伝いをさせていただきます」(2022年11月)
 

 中村桂子さんからの温かなお気持ちをいただき、具体的な形として、改訂版の冒頭に、子どもたちへのメッセージを掲載したいと考え、2023年2月、正式に原稿執筆をお願いしました。
 その依頼に快く応えてくださり、2023年2月下旬、子どもたちに向けた優しく、そして深い「知」に裏打ちされたメッセージが届きました。
 その言葉は、改訂版の冒頭に、「JT生命誌研究館名誉館長」からのお祝いメッセージとしてではなく、編集チームの一員である証しとして、改訂版編集委員会「特別アドバイザー」の立場で本文の第一章として掲載されることになりました。

 前述したように美唄市は、2011年から「農業体験学習」を実施してきましたが、2022年8月の「アルテピアッツァ美唄」での講演会の折、意見交換の場で中村桂子さんから「体験学習はあくまで“体験”の域にとどまるが、週間の授業の“時間割”の中に“農業”として表示されていることがポイント。そのことで子どもたちの心にしっかりと“農業”への思いが刻まれる」との貴重なアドバイスがありました。美唄市は、そのアドバイスに沿って、2023年から「時間割」の中に“農業”と表記することを決めました。そして、その表記も、最終的に「農業科」とすることになりました。
 北海道の教育の歴史の中で、小学校の授業に「農業科」が位置付けられるのは初めてのことであり、全国的にみても、福島県喜多方市のみという画期的な取り組みと言えます。

2022年8月20日(土) アルテピアッツァ美唄
中村桂子 アルテで語る
「生きものとしての人間のつながり」
~生命誌からのメッセージ~
 (写真提供 美唄市教育委員会)

改訂版自体の表記も、従来の延長であれば「美唄市小学校体験農業副読本」となるはずでしたが、これまで述べてきたような経過を辿り、「美唄市小学校“農業科”…」へと変わり、さらに「農業科」には“教科書”が存在しないことを踏まえ、「副読本」ではなく、「読本」とする決断に至りました。最終的に「美唄市小学校農業科読本」という、新しい世界が切り拓かれることになったのです。

 

(第8号に続く)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1387/

2023年6月26日号(通算23-10号)

講演会のお知らせ 中村桂子いのち愛づる生命誌講座(その2)「あなたが生きものであることを学ぶ農業」が開催されます

中村桂子さんは「生きる力を育む学びの原点は農業にある」と考え「小学校には農業が必須」と提唱し、喜多方市や美唄市の小学校の「農業科」創設の指導的役割を担ってきました。

その中村桂子さんの講演会を昨年8月に続く第2回目として開催します。
今回は、第1回目の美唄市に続き第2回講演会を美唄市アルテピアッツァと札幌市で開催し、より多くの方に「農業で学ぶ」を知っていただきたいと考えています。

中村桂子さんが語る“農業の持つ力や子供が農業で学ぶ大切さ、「人間は生きものであり、自然の一部である」”というお話しから、生きることの本質を学ぶ講演会です。
たくさんの方に来ていただきたいので、参加費は無料。美唄会場は週末の夜間。札幌会場は、土曜日の午後にしました。

【日時・場所・定員】
①美唄会場
日 時:7月28日(金)18時00分~19時30分 (開場17時30分)
場 所:安田侃彫刻美術館アルテピアッツァ美唄 アートスペース
参加費:無料
定 員:150名(申込制・先着順)
申し込み方法:
このQRコードを読み取り、お申込みフォームから申し込むか、

☎0126-63-3137  安田侃彫刻美術館アルテピアッツァ美唄にお申し込みください。
(平日10時~17時まで)

②札幌会場
日 時:7月29日(土)13時30分~15時30分 (開場13時00分)
場 所:JRタワーホテル日航札幌 36階 スカイバンケットルーム「たいよう」
(札幌市中央区北5条西2丁目5番地)
参加費:無料
定 員:200名(申込制・先着順)
申し込み方法:
このQRコードを読み取り、お申込みフォームから申し込むか、

☎ 090-8901-6631  (株)ノヴェロにお申し込みください。
(平日10時~17時まで)

【講師】

中村 桂子
美唄市小学校農業科読本編集委員会特別アドバイザー
JT生命誌研究館名誉館長 理学博士、生命誌研究者

【主催】
美唄市、美唄市教育委員会、(一財)HAL財団、(NPO)アルテピアッツァびばい

【特別協力】
(公財)北海道文化財団、(公財)秋山記念生命科学振興財団、美唄市PTA連合会

※QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1408/

2023年6月20日号(通算23-9号)

~短期集中レポート~ “農業で学ぶ” 小学校における「農業科」教育の道を拓く挑戦(6)

磯田 憲 一

2022年11月15日~16日の日程で喜多方市を訪問したのは、美唄市から板東知文市長、村上学務課長など4名、HAL財団からは田尻忠三常務理事と私の、合わせて6名でした。喜多方市では、遠藤忠一市長、大場教育長、中野学校教育課長補佐(指導主事)が対応してくださいました。

(写真提供:美唄市教育委員会)

 喜多方市教育委員会から説明のあった事柄は、概ね次のようなものです。

  • 2006年からスタートした喜多方市内小学校における「農業科」は、特区制度廃止後も総合学習の一環として継続している。
  • 福島県内もの含め「農業科」の取り組みは広がっていないが、授業としての「農業科」教育の効果は、計り知れないほど大きなものがあると考えており、喜多方市としては、これからも継続していく方針は堅持していく。
  • 「農業科」は、市内17小学校で実施している。ほ場の確保などの課題はあるが、農業者の協力をもらいながら継続している。

(写真提供:美唄市教育委員会)

  • 喜多方市の副読本は、制作から相当の時間が経過しているが、今のところ改訂版づくりは、予算上の制約もあり予定していない。
  • 今回、美唄市、HAL財団の訪問をいただき感謝している。今後、両市の子どもたちの交流などができると良いと思っている。
  • HAL財団が進めている「大地の侍」の上映セミナーには(会津藩としても)大変興味がある。喜多方市でも上映の機会があると良い。

 喜多方市の、以上のようなお話に対して、HAL財団からは次のような事柄を伝えました。

  • 県内外への広がりはないとしても、農業科教育の意味、価値への深い思いをお聞かせいただき、嬉しく心強く思う。
  • 喜多方市内外への情報発信や政策効果のアピールに苦労されているとのことだが、こうして遠く北海道から板東美唄市長らが訪問したのは、喜多方市への深い敬意を込めてのこと。喜多方市の先駆性に対する美唄市長らの思いと来訪の意味を、喜多方市の情報発信の中で活用していただいて良いのではないか。
  • 美唄市も来年度からのスタートを目ざして、さまざまな手配を整えつつある。両市の「農業」への敬意を込めた先駆的な取り組みを、日本各地に広めていくために、両市の連携をお願いしたい。
  • 生命科学のレジェンドと言われる中村桂子さんは、喜多方市に“頼まれもしない”のに、喜多方市の先駆的取り組みを熱く語り、農業に学ぶ喜多方の子どもたちの「生きる力」に溢れた言葉や発言を紹介されている。喜多方市も、市政を担う皆さんが異動で交代し、近年中村桂子さんとの直接的接点はないかもしれないが、中村さんの次代を見据えた深い知見に学ぶことが大切だと感じる。改めて中村さんのお力をいただき、中村さんが語り続けている「知の世界」を、喜多方市の力として活かすべきではないかと思う。

 美唄市とHAL財団が思いを共有することで実現した喜多方市訪問。これからの方向性を考える上で、とても貴重な学びの旅になりました。とりわけ、全国1800に及ぶ自治体の中の唯一“農業で学ぶ”ことに深い意味と価値を認め、これからも「農業科」教育を揺るぎなく進めていこうとしている喜多方市の方針を確認できたことはとても意義深いことでした。

(注:肩書は当時のもの)

 (第7号に続く)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1380/

2023年6月13日号(通算23-8号)

~短期集中レポート~ “農業で学ぶ” 小学校における「農業科」教育の道を拓く挑戦(5)

磯田 憲 一

中村桂子さんの助言を受け、喜多方市がスタートさせた「農業科」教育。その反響は大きく、全国各地から教育関係者などが多数視察に訪れたといいます。そして誰もがその取り組みの素晴らしさを称賛し「私たちも是非取り組みたい」と言いながら帰って行かれる状況だったそうです。

が、しかし、視察者の誰もが取り組みの意義を理解しつつも、喜多方市に続く自治体が一つもなかったことを、中村桂子さんは「とても残念なことだった」と述懐されています。

そうした状況下にあった中、板東市長との不思議な会話の展開によって、(1)美唄市が喜多方市に学び、2011年「小学校農業体験副読本」を制作していたこと、(2)制作後11年が経過し、現在、副読本の改訂版づくりが進められていること、を私自身が初めて知ることとなりました。そうした事実と状況を中村桂子さんにお伝えしたのは、昨年(2022年)7月のことです。

その報告に中村さんは大変驚かれ、「喜多方市以外に副読本を作っていた自治体があることなど、この10年全く知らなかったし、想像もしていなかった。とても嬉しい知らせで、美唄市が進めている改訂版づくりに何らかの形でお手伝いさせていただければ…」との思いが寄せられました。高名な中村桂子さんからの申し出に、むしろこちらが恐縮し驚かされることになりました。

中村さんから申し出をいただいたことを機に、農業や農村文化などの在りように広く関わるHAL財団として、中村桂子さんと改訂版作業を進める美唄市、美唄市教育委員会との間を結ぶ役割を果たすことは「北海道農業に新しい春(HAL)の息吹を‥」というHAL財団の思いに叶うことであると考えました。その思いに沿う取り組みの一歩として、構造改革特区の認可を受けて小学校における「農業科」教育の扉を、日本で初めて開いた福島県喜多方市の「今」を把握することが大切であり、必要であると考え、喜多方市訪問を美唄市に呼びかけました。そして、昨年(2022年)11月、津軽海峡を越え、遥かなる福島県喜多方市を訪ねることになったのです。

(第6号に続く)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1374/

2023年6月6日号(通算23-7号)

~短期集中レポート~ “農業で学ぶ” 小学校における「農業科」教育の道を拓く挑戦(4)

磯田 憲 一

 中村桂子さんは、「人間は生きものであり、自然の一部」という事実を基本に、生命論的世界観を持つ知として「生命誌」を構想し、1993年「JT生命誌研究館」を創設しました。

 私が「中村桂子」さんを知る契機となったのは、2006年から18年間にわたり取り組んできた「君の椅子プロジェクト」がつなぐ縁でした。

 出会いは、2011年3月に発生した「東日本大震災」の際、震災当日に被災3県で誕生した98人の「新しい生命」に、「生まれてくれてありがとう」の思いを込めて「希望の君の椅子」を贈呈したことに遡ります。98の「新しい生命」が産声を上げた時の状況や思いを綴った手記「3・11に生まれた君へ」(北海道新聞社など4社共同)を出版した際、毎日新聞紙上でその書評を書いてくださったのが中村桂子さんなのでした。

 生命科学者である中村桂子さんは、かつて、経済界の指導的人物が、「小さな頃から経済社会の動きを学ばせることが必要だ」として、そのための「情報技術教育は、できるだけ早く、小学校低学年から行うべき」との論陣を張ったことに対し、日本経済新聞紙上で、「子どもたちは、“株”を勉強するより、大地に育つ“カブ”から学ぶことの方が大切」と反論しました。中村さんのその至言に共感・共鳴した当時の白井英男喜多方市長が、中村さんの思いの具体化として、小学校に「農業科」を組み入れることを決断、2006年に実現したのです。

 12年前、美唄市教育長であった現美唄市長の板東知文さんが、喜多方市のその先駆性に学び、「美唄市農業体験副読本」を制作したのは前述したとおりです。

 そうした10数年前の経緯がある中で、私が「アルテピアッツァ美唄30年を機に、中村桂子さんを招くことにした」と板東市長に伝えると、板東市長は大変驚いた様子で、「磯田さんは、どうして中村桂子さんのような“ビッグ”を知っていたのですが?」と質問されました。私は、むしろその問いに驚き、「板東さんこそ、何故中村桂子さんを知っているのですか?」と逆質問したのです。そのやり取りが端緒となり、その時点では想像することもなかった「美唄市小学校“農業科”教育」の仕組みづくりがスタートすることになるのです。

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1367/