2025年10月9日号
通算25-05号
《WorldSkills Lyon2024》 「技能五輪 フランス・リヨン」
~リヨンの空の下で思い巡らせたこと~②
◆技能五輪・リヨン2024で見えたもの
日本は、伝統文化の継承も含め「ものづくり日本」を誇る国だったはずだ。
しかし、いつしか「大量生産・大量消費」の渦の中に巻き込まれ、“手わざ”を積み重ねていく価値に寄せる心を乏しくしてきはしなかったか。
技能の進化に大きな役割を果たしている「技能五輪」に対して、日本のメディアは今のように無関心であり続けていいのか…。そして、私たち市民が、未来を見つめる若者たちの、美しいまでもの“精進”と“切磋琢磨”に目を瞑(つぶ)ったままでいていいのか…。そんな思いの募るリヨン体験となった。
「家具」部門に挑んだ渡部礼嗣さんは善戦及ばずだったが、「技能五輪」では、近年中国や韓国の躍進が著しいと聞く。リヨンでも、59種目中36個の金メダルを中国が占め、2位の韓国は10個だった。日本の衰退はここにも見え隠れするように思えてならない。
リヨン大会は、想像を遥かに超える、毎日数万人が訪れ、見学の人の波は途切れることがなかった。とりわけ心に残ったのは、選手たちの奮戦ぶりに目を輝かせる子どもたちの姿だ。
リヨン中の小中学生が会場を訪れているのではないか…、いや、パリも含めたフランス各地の子どもたちも授業の一環として来ているのではと思わせるほどの数だった。技能を磨く若者たちが一堂に会し、その技を競い合う「WorldSkills」の世界は、「職業教育」の体験の場としても一級のフィールドと言っていい。選手たちの手わざに目を凝らす子どもたちの姿が、何よりその証左と言えるだろう。好奇心に溢れた子どもたちの姿が心に残る。
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多くの地元の子どもたちが競技を見学
◆“ものづくり日本”に再び輝きを
日本が獲得した5個の金メダルのうち、唯一の女性金メダリストとなったのは、「理容・美容」に出場した濱吉優希さん(兵庫県・グラムール美容専門学校出身)。「理容・美容」部門では日本人初の金メダルとなった。業界関係者によると、同部門は「日本は勝てない」と言われ続けてきた世界だという。「この職種には、過去何度も挑戦しながら、日本の教育システムや、国内予選と国際大会での競技ルールの違いなどで、メダル獲得は困難と言われてきた」。そうした中での“金メダル”で美容業界には衝撃が走った。この快挙により、「日本の技能五輪に対する取り組みのあり方や育成システムが見直される契機となるのではないか」と言われている。
「理容・美容」職種の濱吉優希さんの金メダル関連情報を長々と引用したのは、「ものづくり日本」の「今」を端的に示す事象の一つと受け止めなければ、と感じたからだ。
理美容の世界では「あり得ない」と思われてきた金メダル。尋常の努力では決して辿り着けないと思われてきたというが、リヨン大会での金メダリストの誕生は、理美容業界に対する国内外の評価を一変させ、日本の技能五輪に対する取り組みを見直す契機ともなると絶賛されている。
日本の理美容界の在りようを変えるかもしれないと評価される濱吉優希さんの金メダル獲得…。地元兵庫県や理美容界では、その驚きと喜びのニュースが飛び交ったに違いない。しかし、関係者以外には、ほとんど知られざる出来事だったのではないか。なぜなら、日本代表を送り出した都道府県以外での報道は皆無に近いと思われるからだ。「理容・美容」が報道されなかった、というのではない。「技能五輪」そのものが報道されなかったのだ。これでは、日本人のほとんどは知る由もない。たまたまフランス・リヨンに同行し、競技選手としての濱吉優希さんの、ひたむきな姿を目に焼き付けてきたからこそ、わが胸に届くニュースとなったのだ。
「やり投げ」北口榛花さんの快挙に心打たれ、その精進に敬意を払う者の一人であることを踏まえた上で、濱吉優希さんの快挙は、北口榛花さんのビックニュースに劣ることなく、並び評されていい出来事なのではないか。にもかかわらず、メディア報道におけるその格差、落差は何ゆえなのか…。前述したが、技能の錬磨に邁進する若者たちは、人々の日々の暮らしのクオリティをその両腕で担う技能アスリートたちなのだ。そのひたむきさにおいて、“速さ”や“高さ”を競うスポーツアスリートたちと何の違いがあるものか…。
「ものづくり王国」を誇る日本は、かつて「技能五輪」のトップをゆく先進国だったはずだ。私自身、子どもの頃の記憶を辿ると、「技能五輪」報道の記憶がかすかに残っている。しかし、いつしか経済発展の渦の中に巻き込まれてしまい、この授かった掌(てのひら)で手わざを積み上げていくという価値に寄せる心を貧しくしてきた日本…。今、「技能五輪」の持つ意味をさぐり、そして「技能五輪」に向ける眼差しを、もう一度心の内に取り戻す季節がきたのではないか…。そうした感性を再び手にすることが、とどめることのできない少子高齢社会に生きる私たちにとって、心に染み渡る豊かさを一人ひとりの手の内に取り戻す確かな道のりと思えてならない…。
「技能」の世界のアマチュアが、フランス・リヨンの空の下で、思い巡らせた“ひと言、 ふた言”…。掌(てのひら)の宇宙を取り戻したいと願う、“門外漢”のリヨン報告である。
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家具製造競技の銀メダルは3か国
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