HAL財団

北を愛づる イソケンコラム ”時の情景”を旅する

このコラムは、HAL財団理事長磯田憲一が日々感じたこと、今までの仕事や人、地域との出会いから感じたことを書き記すコラムです。朝日新聞北海道版に、月1回連載している「北を愛づる 時の情景」に加筆修正して掲載するほか、書き留めたものも随時お届けします。

2026年1月29日号
通算25-08号

100年企業、新しい自治体向け寄付を制度化

先日の新聞報道で、道内の登録企業約7万社のうち、創業から100年を超える「老舗企業」が1690社に上ることを始めて知った。全体に占める割合は2.23で、全国平均(2.75)を下回り、1位の京都府(5.35)とは大きな差はあるものの、本格的開拓が始まって155年の北海道で、“100年企業”が1700社に迫るというのは想像を超える数で驚いた。「老舗だから安泰」というわけではない。北海道開拓を支え、北海道のアイデンティティそのものとも言えた「拓銀」の突然の“退場”を思い起こすと、1世紀に及ぶ経営の継続がいかに困難なことであるかは想像に難くない。

かつて「拓銀」「雪印」などと並んで、広く道民に親しまれていた企業の一つ「ほくさん」。家庭に内風呂などなく、銭湯が普通だった時代に、日本初の家庭用ユニットバス“ほくさんバスオール”の製造販売で一躍その名を知られることになる。1929年の創業だが、1993年に大同酸素との合併で「大同ほくさん」、さらに2000年に「共同酸素」が加わり、現在の「エア・ウォーター」が誕生。酸素製造が祖業だが、多彩な業種を傘下に収めながら規模を拡大、一昨年念願の「一兆円企業」となった。

北海道を創業の地として成長してきた「エア・ウォーター」は、2029年に“100年企業”の仲間入りを果たす。“地球環境”と“健康”への貢献を企業理念とする同社だが、世界が深刻な気候変動に直面する中で持続可能な社会を見据える時、再生可能エネルギーや未利用資源など北海道の有する豊富な潜在力に改めて着目し、「100年」の節目を前に、その基盤を支える道内“基礎自治体”への支援事業をスタートさせた。「社会課題を抱えている“後進地域”北海道を支援する」という従来の「寄付」や「助成」の発想ではなく、「社会課題解決に取り組む“次代の先頭ランナー”たり得る北海道」に着目した、いわば「投資的寄付」というポジティブな発想に立つ支援の仕組みと言っていいだろう。

「ふるさと応援H(英知)プログラム」と名付けられたその仕組みは、2023年から2030年までの8年間、1年に1億2500万円を目処に、総額10億円を179の基礎自治体を対象に寄付するというもの。企業による自治体への寄付は、個別に往々行われているが、単発ではなく恒常的な制度としての「Hプログラム」はシンプルでありながら、その仕組みはこれまでに類例を見ない。

自治体の企業への寄付依頼は通常、地縁・血縁を頼ることになると思われるが、このプログラムは、全ての基礎自治体に門戸を開き、たとえ人脈に乏しい小規模自治体であっても、エア・ウォーターのドアを気軽にノックすることができる。

このプログラムの意義の一つは、寄付する側、される側の関係を超えて、情報の共有を通して民と官が協働し、社会課題に共に向き合う関係性を築く可能性を有していることだ。エア・ウォーターは、2000年に老舗企業「雪印」が牛肉偽装問題で揺らいだ時、廃業に追い込まれた「雪印食品早来工場」を「春雪さぶーる」として引き継いだ経験を持つ。北海道との縁の深い同社が、北海道の未来のために切り拓いた「企業寄付」の新基軸…。他企業の共感を呼び、北海道ならではの“スタンダード”として広がりを見せてくれることを期待したい。

※朝日新聞より加筆修正

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