2026年3月24日号
通算25-25号
農を支える、農と歩むVol.02
北海道を代表する企業、そして北海道農業とともに歩んできた企業と言えば「雪印」だろう。前身の北海道製酪販売組合時代から雪印乳業を経て現在の雪印メグミルク(株)に至るまで実に100年を超える歴史のある企業だ。創業者の一人である宇都宮 仙太郎(1866~1940)は、北海道酪農の父と呼ばれ、1968年に始まった北海道の優れた酪農家へ贈る賞「宇都宮賞」は現在でも酪農関係者にとっては憧れの、非常に名誉ある賞である。
HAL財団との関わりのある酪農経営者では、2017年度(H29年度)第12回HAL農業賞 優秀賞を受賞した有限会社ドリームヒルの小椋幸男さんが平成26年度(2014年)第47回の宇都宮賞酪農経営の部を受賞している。また、WEB版HALだより動画編「夢の扉を開けませんか? 第2話 海外経験を活かし 北海道農業の明日を考える」でお世話になった酪農学園大学の堂地修先生が第58回 宇都宮賞 酪農指導の部を受賞している。
そして、創業者の一人である黒澤 酉蔵(1885~1982)は、日本酪農の父、北海道開発の父と称されているが、黒澤氏は酪農学園を設立し、多くの卒業生が北海道で農業者、農業経営者となって活躍しているのは周知のことである。
私たちが、親しみを込めて「雪印」と言ってしまう雪印メグミルク(株)は、一般の人にとっては酪農の会社というイメージが強いが、畑作や稲作農家にも縁があるのがグループ企業の雪印種苗(株)だ。種苗や緑肥といった分野では日本のトップクラスの企業であり、HAL財団でも研修会を長沼町にある雪印種苗北海道研究農場で開催したことがある(2025年11月)。
さて、今回はその雪印メグミルク(株)北海道支社の副支社長である齋藤浩哉さんにHAL農業賞アンバサダーの渡辺陽子さんが話を伺った。ところで、齋藤浩哉さんというお名前にピンときた方も多いと思う。齋藤さんは、1998年の長野オリンピックでジャンプ団体金メダルを取ったあの齋藤さんだ。どんな話になるのか、この先は渡辺陽子さんのインタビュー記事だ。
(インタビューは、2026年ミラノ・コルティナオリンピックの熱気が冷めやらぬ2月25日に札幌で行った)
<現役時代の齋藤浩哉さん>



(写真提供(3枚とも)齋藤浩哉さん)
長野オリンピック、ジャンプ団体金メダル獲得メンバーの齋藤浩哉さんが今回のゲスト。
なぜ、私が聞き手かって?
それは日本で初めてジャンプ実況をした女性アナウンサーだからです(笑)
長野オリンピックの前年、1997年3月に実況デビューしました。
見てください!実況前の、この嬉しそうな顔…

(写真提供:渡辺陽子さん)
そして、緊張感のある実況中の私。

(写真提供:渡辺陽子さん)
ちなみに、こちらは、さらに遡ること3年…1994年リレハンメルオリンピック直前の大会で、私が齋藤さんにインタビューしている様子です。2人とも若い!!

(写真提供:渡辺陽子さん)
そんな私たちが、29年ぶりの再会です。

齋藤さんは、選手を引退後、雪印スキー部のコーチ、そして、監督に就任。2014年に監督を退き、社業に携わり、2024年に、雪印メグミルク北海道支社 副支社長に就任。
現在はスキー部を離れていますが、会って早々、やはりミラノ・コルティナオリンピックの話に花が咲きました。そして、長野オリンピックの思い出を伺うと、思いもしない返答が!

「長野オリンピックの時は、一切、オリンピックムードを感じなかった。オリンピック直前までヨーロッパ遠征で、一旦、札幌に戻り、テレビで開会式の様子を見て、あ~始まったんだなぁと思った。そして、長野に移動して、選手村ではなく、チームで使っている、いつものペンションに宿泊。(選手村のある長野市とジャンプ台のある白馬村までの距離があったため。) 競技終了後は、メディアセンターをまわり、インタビューを受けるなどした後、すぐに札幌に戻り、翌日には、ノルウェーへ出発。ノルウェーのテレビで、日本がショートトラックで金メダルを取った!というのを見て、オリンピック、まだやっているんだぁと思ったくらい。ヨーロッパへの遠征が終わり、帰国したのが4月。その頃には当然、オリンピックムードなんてゼロ。そんな感じでしたよ。」
日本中が感動の渦に巻き込まれていた時、本人は、台風の目に入ったかのような状態で、オリンピックムードのかけらも感じていなかったとは!!大事を成し遂げたヒーローと日本のお祝いムードとの温度差の大きいこと!
さて、今の業務について伺うと…
「食、運動、健康維持をテーマに、小学生を中心とした「食育」活動などを行っています。元スキー部の強みを活かし、長野五輪金メダルメンバーの原田、岡部、齋藤と管理栄養士がワンチームで学校へ出向き、運動・食事・カルシウムの大切さを伝える「食育出前授業」を行っています。これは雪印メグミルクにしかできませんからね。これを機に、当社商品のファン、そして、スキーファンにもなってもらえると嬉しいですね。」
選手時代の齋藤さんとは、取材で話を聞くくらいで、じっくり話をしたことはありませんでしたが、堅実で安定感がある印象を持っていました。そして、今、社業に携わる真摯な姿に、納得。
「元スキー部で、金メダリスト齋藤浩哉」として、仕事を始めた当初は、苦労もあったそうです。


「ある工場の立ち上げの時に、現場に行ったんですよ。でも、現場のことがわからないし、何をして良いかもわからないから、何もできない。すると上司に「お前!いつまで金メダリストのつもりしてんだ!」と叱られた。そこで、「すみません。でもね、金メダリストに「元」はないんですよ。一生、金メダリストなんです。元ジャンプ選手はあるけど、元金メダリストって言葉はないんですよ。」って言ったら、それ以降、気にかけてくれるようになって、飲みに連れて行ってもらったりして(笑)。そんな時に「僕らもよく言われますけど、金メダリストのつもり、選手のつもりなんてないです。ただ仕事について、よくわからない、できないだけ。みんな頑張ろうとしているので、言い方を変えた方がいいんじゃないですか?」と腹を割って話すと、親しくなっていくんですよね。こういう社内営業も大事で、そうすると仕事もスムーズに運ぶようになるんですよね。」
このエピソード、齋藤さんだから成立したのだと思います。
上司に、謝りながらも、率直な気持ちを伝え、でも嫌味ではなく、ユーモアとして、伝えられる力、人としての魅力があるからこそ、その真意が上司にも伝わり、良好な関係を築けたのでしょうね。それにしても上司への切り返し!これは選手時代に培った胆力の賜物ですかね(笑)。
こちらのエピソードも齋藤さんの大胆さが垣間見えます。
「以前、ある企画書を出したら、通らなかったんですよ。ブラッシュアップして再提出しようかと思ったけど、なんだか釈然としない。それで、3か月後に、全く同じものを提出したら、すんなり通って(笑)どこも直してないんですよ。」
普通は、なかなかそんな勇気は出ない!
スキーと会社の仕事に、共通することも。
「目標を設定して、やるべきことを逆算して考える。これは会社も選手も一緒ですね。自分は、たいした選手ではなかったけど、メダリストになった。それは、逆算の考え方を実践していたからだと思います。考えることは大事。部下が、「どうしたらいいですか」と聞いてくることがある。そんな時は「どうしたらいいか、まず考えてみろ」と。人に聞きたいなら、まずは、自分がどうしたいのか言いなさいってことですよね。「こうしたいんですけど」と言われたら、アドバイスするけど、丸投げされたら、「知りません」となる(笑)。考えたら、答えは出る。しかも答えは1つじゃない。目的は1つでも、手段は人それぞれ、違っていい。そういうことを伝えてますね。そして、稟議書の決裁の時、「本当にいいんだね?決裁するぞ!決裁するってことは、しっかりやってもらうってことだよ!」って言うと、「はい!やります!」と部下の意思確認ができるんですよね。」
このやりとり、齋藤さんの軽いノリでやっていますが、部下の心構えができて、責任感も違ってきますよね。

ところで、雪印メグミルク(株)は昨年、2025年に100周年を迎えましたが、社員の皆さんで、毎年、行っていることがあるそうですね。
「毎年、株主総会の後に、役員と本社従業員で、創立者である宇都宮仙太郎、黒澤酉蔵、雪印乳業初代社長の佐藤貢のお墓参りに行きます。雪印メグミルクでは、新入社員や北海道に異動してきた従業員もその都度、お墓参りに行きます。100年の礎を作った創立者!そして、支えてきてくれた酪農家、消費者への感謝の気持ちで行われています。」
「そして100周年の節目に、創業の精神である「健土健民」を存在意義・志とし、コーポレートスローガンは「Love Earth.Love Life」に刷新しました。コーポレートマークも可愛らしくなったんですよ。」
齋藤さんは、今後、何を目指していますか?
「うちのプレゼンス(存在価値)を上げることですかね。社内外から、北海道支社が必要とされ、頼られる存在になるように、できることは全てやる。基本、断りません。できない理由を考えない。できることはなんだろうと考える。だけど、たいしたことはできませんよ(笑)。たいしたことはできないけど、これならできますよ~ってね。」
「消費者の皆様には、うちの商品を活用していただきたいですね。生活の中で、健康維持や楽しいひと時の団欒のお供に選んでいただける商品、信頼して選んでいただける会社になれたらいい。私たちは、過去の事件の教訓として、人の人生を背負っているという意識を忘れてはいけない。そして、原料である生乳を供給してくださる酪農家がいないと成り立たないわけで、お互いが同じ思いで良い方向に進むようにやっていきたいですね。」
齋藤さんは今回のインタビューに身構えることもなく、等身大の姿を見せてくれました。「職人」と評された選手時代。派手さはないけれど、きっちり仕事をして結果を残し、金メダルをつかみ取った現役時代、そのままの姿でした。ちなみに、テレビの解説では真面目な部分しか伝わっていないかもしれませんが、ソフトな人当たりで、話が面白く、ユーモアのある人ですよ(笑)。

(取材・記事:HAL農業賞アンバサダー 渡辺陽子)
取材協力: 雪印メグミルク(株)
URL:https://www.meg-snow.com/






