HAL財団

「家業」から「地域企業」へ

WEB版HALだより「テキスト版」

2023年5月16日号(通算23-4号)

~短期集中レポート~ “農業で学ぶ” 小学校における「農業科」教育の道を拓く挑戦 (1)

磯 田 憲 一

 

国土の22%を占める広大な大地に多彩な農業が展開され、日本の食糧基地としての役割を担う北海道。その北海道にとって、将来においても農業が名実ともに「基幹産業」であり続けるためには、算出高の大きさを拠り所とするだけでなく、農業・農村の担う役割や秘めている価値に対する北海道に暮らす人々の共感と敬愛の輪を育み、農業・農村の営みを支える“すそ野”を広げていくことが大切です。そのことが、産業としての力量はもとより、豊かな暮らしを支える基軸としての総合力を高めていくことにつながると言えるでしょう。

 

農業が内にもつ“生命産業”としての意味を踏まえた時、私たちがこの北海道に育ち暮らす上での原点として、農業が育む多様な生命の営みに学ぶ機会を、この北の大地に広げていくことが、人と暮らしの在りようを考える上では勿論、地球規模で広がっている今日的課題に向き合うためにも大きな意味を持つと考えます。「農業」が秘める深くて大きな使命の一つでもあると言っていいでしょう。

その意味で、“北海道の未来”そのものである「子どもたち」に、広く“農業で学ぶ”場を用意することは、子どもたちの「生きる力」を育むことは勿論のこと、多様な生命に対する敬愛の思いや「生きもの」の一つとしての謙虚さを内なるものとしていくための、次代を見据えた大切な方向性といえます。

そうした視点に立つ時、農業を基幹産業と標榜している北海道にとって、現在、美唄市、美唄市教育委員会が2023年度スタートを目ざして準備を進めている小学校教育に「農業科」を組み入れる挑戦は、前例のない先駆的取り組みであり、画期的な仕組みと言えるものです。

私たちHAL財団は、農業・農村が秘める価値への共感や敬愛の輪を広げていくことが「持続可能な農業」を支え、ひいては、この大地を世界に稀なる”暮らしの王国”へと導くことになるとの視点に立ち、2022年4月、次なるステップに向けて新たなスタートを切りました。今、美唄市、美唄市教育委員会が、多くの障壁を乗り越え他に先駆けて取り組んでいる、小学校での“農業で学ぶ教育を支援することは、私たちが目ざす方向性に合致するものであり、HAL財団のスリムさと自律性を活かし、その輪を各地域につないでいく役割を果たしていきたいと考えています。

北海道には先例なく、全国的にも僅か一例しかない、この新基軸の取り組みが実現するまでの経過を、取り組みを支援するHAL財団の思いも含めて、数回に分けて報告することとします。

 

(第2号に続く)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1337/