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WEB版HALだより「テキスト版」

2023年5月30日号(通算23-6号)

~短期集中レポート~ “農業で学ぶ” 小学校における「農業科」教育の道を拓く挑戦(3)

磯田 憲 一

 中村桂子さんの記念講演の開催が、思いもかけない新たな道を切り拓くことになるのですが、その道のりの経過を報告する前に、「アルテピアッツァ美唄」30年を機に、思い新たに「次なるステップへ」向かう“キックオフセミナー”をなぜ開催することになったのかについて、少々敷衍(ふえん)しておきたいと思います。

「アルテピアッツァ美唄」は、旧美唄市立栄小学校の閉校跡を活用して1992年に創設されました。その創設前から閉校跡には「美唄市立栄幼稚園が開設されていて、「アルテ」がスタートした後は、芸術空間全体を園庭とする幼稚園として、多くの訪問者がその存在に驚き、類例のない幼稚園として憧憬される存在でした。しかし、残念ながら2020年3月、64年に及ぶ歴史に幕を下ろすことになりました。

「閉園」を決めた当時の市長や市議会が、どのような政策的意図でそう判断したのかは定かではありませんが、もしかすると、栄幼稚園の存在は、たまたま芸術空間の一角に開設されている一幼稚園、という認識にとどまっていたのかもしれません。そうだとしたら、栄幼稚園と園児たちの存在が、この空間全体にかけがえのない価値を付加してきたことを見逃していたということになります。

「灯台下暗し」は、誰もが陥りがちなことですが、地域の「本物の力」は、「ローカル」を見つめ、「ローカル」を深く掘ることで生まれてくるものです。この「アルテピアッツァ美唄」は、全国にある芸術施設の一つというだけでなく、繁栄と衰退の歴史を染み込ませてきた土地の記憶、時代に翻弄された人々の歓びや哀しみの集積、そして「アルテ」を居場所とする子どもたちの日常の風景としての存在…、それらがさまざまに織りなし相まって“場の力”を生み出し、多くの人たちの心に確かな位置を占めてきたのです。その「場の力」を生み出す上で比類なき役割を担ってきた子どもたちの「居場所」を失ったままでいいのか…。それが、「アルテ」の「次なる30年」を見据えた時の強い課題意識でした。

そうした中で、美唄市は、幼稚園閉園後のこの場の利活用を考える検討委員会(委員長・羽深久夫札幌市立大学名誉教授)を、2020年9月に設置しました。検討委員会は、その後一年半に及ぶ検討を経て2022年3月、美唄市長に「提言書」を提出しました。その柱は、閉園後の空間を利活用し、再びこの場に「多様な幼児教育“機能”」を再生していくことが、市民の誇りを高めていく確かな道のりであるという確信に満ちた提言でした。

その趣旨を受け止め、「アルテピアッツァ美唄」を管理運営する「認定NPO法人アルテピアッツァびばい」は、次なる30年を見据え、この空間を「居場所」とする子どもたちの歓声が、アルテの丘にこだまする風景をもう一度取り戻していきたいと考えています。そうした取り組みを進めていくことが、社会的課題に向き合う公共空間としての役割であることを深く認識し、思い新たに「次なるステップへ」歩みを進めていくこととし、その大いなる回生への記念セミナーとして、生命科学の「知」の世界を拓いてこられた中村桂子さんの講演を企画開催することにしたのです。

(第4号に続く)

 

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