2023年11月28日号 (通算23-27号)
書籍紹介 「めざせ!ムショラン 三ツ星」
刑務所栄養士、今日も
受刑者とクサくない
メシ作ります
話題の書籍のご紹介。
「めざせ!ムショラン 三ツ星」黒栁 桂子著、朝日新聞出版発行。
私は法務省には何人かの知り合いがいるが、法務技官(法務省での技術職員)に管理栄養士がいることさえ知らなかった。そして、刑務所での食事を作っているのが、誰なのかもこの本を読むまで知らなかったのだ。
仕事柄、食事の材料となる野菜などの値段など、いろんな情報が入ってくる。出来栄え、出荷額、これからの流行りや栽培方法なども。
そして、巷にあふれる食に関する広告。これを食べると健康になる、という広告もある。どんな食事が大事か、どんな食品が危ないか、多くは危機感を煽るようなものが多く、そういうのを目にすると辟易としてしまう。
そのような広告に出あう度に「選ぶことができるのは、それだけ時間的な余裕や金銭的余裕、そしてそもそも選ぶことのできる場所に住んでいるんだ」と見ていた。
この本の存在を知り早速購入してみた。
人材募集があり、それに応募して採用された筆者(管理栄養士)。刑務所での実務がどのようなものかを知らぬままに応募したという。
それまで学校給食や病院、福祉施設での給食経験はあるというが。。。
刑務所では、受刑者が給食(食事)を作るのだ。しかも、全員がほぼ未経験。
それを指導し、さらに栄養、予算から献立を作るのが法務技官(管理栄養士)の仕事だ。
書籍案内には、このような言葉が記してあった。
「刑務所では制限が多いながらも「ワクワクする給食」をめざし、受刑者たちの「ウマかったっス」を聞くため、彼らとともに日々研究を重ねている」と。
現代は、貧困で日々の食べ物に困る人もいる一方、体に良いという謳い文句を掲げた多くの食品やサプリメント、果ては栽培方法までもが出回っている。
ところが、選択肢もほぼなく(まったく無いわけではなく、その選択をするのが法務技官の仕事である)、多くの制限のなか日々の食事を作り、食べ、そして更生に結び付ける法務省の仕事。
私たちに必要な食事をもう一度見つめ直さなきゃなぁ、と思う1冊であった。
(HAL財団 上野貴之)