HAL財団

「家業」から「地域企業」へ

WEB版HALだより「テキスト版」

2025年8月26日号 (通算25-09号)

ブロッコリーはお好きですか?(1)

*今回の「WEB版HALだより」は、野菜ソムリエとして大活躍の吉川雅子さんにお願いしました。
なお、この文章は、筆者及び筆者の所属する団体の見解であり当財団の公式見解ではありません。

*2週にわたって掲載いたします。

レポート:吉川 雅子

「ブロッコリー」が、国民生活に欠かせない野菜「指定野菜」に追加されるというニュースが2024年に報道されました。
指定野菜になると何が変わる? 変わらないの?
そもそも指定野菜って?

今回は、ブロッコリーから見た北海道農業の変化を少し紐解こうと思います。2回連載の第1回目となります。

ブロッコリー

ブロッコリーが50年ぶりに指定野菜に認定

全国的に人気のブロッコリー

 緑色のモコモコとしたブロッコリー。いつの間にか、スーパーでもそれなりの売り場面積が確保されるようになった野菜です。このブロッコリーが約50年ぶりに「指定野菜」に追加されることが、2024年に発表されました。
 「指定野菜」とは、1966年に施行された「野菜生産出荷安定法」において、「消費量が相対的に多くまたは多くなることが見込まれる野菜であって、その種類、通常の出荷時期等により政令で定める種別に属するもの」と定義されています。「指定野菜」には、作付面積が最も多いジャガイモ、次いでキャベツ、ダイコンなど14品目あります。なお、ブロッコリーは既に指定野菜であるニンジンの作付面積を上回っています。

 また、作付面積はもちろんですが、ブロッコリーの集荷量および消費量が特に増えており、農林水産省によると、2021年におけるブロッコリーの出荷量は15万5,500トンであり、2001年の7万5,500トンと比較するとおよそ2倍になっています。

これらの背景から、2026年度からブロッコリーが「指定野菜」の仲間に入るというわけです。

ブロッコリー畑

指定野菜制度の導入の背景

 「指定野菜」の導入には、1960年代の日本の時代的背景が大きく影響しています。

 当時は高度経済成長期ということもあり、急速な都市化と工業化が進展していました。農業従事者が減少していく一方、食生活の変化により野菜の需要が高まってきたのです。その結果、野菜の市場価格が乱高下し、社会問題になったことがありました。

 野菜は病害虫や自然災害、天候不順など自然環境に大きく左右され、生産量が変動しやすく、それに伴って販売価格も変動します。そのため、価格の安定化対策や生産の調整、流通の支援を行い、市場の安定化を図る制度が必要となりました。それが「指定野菜制度」なのです。

 指定野菜の生産者は、国の需給ガイドラインに基づいた供給計画を立てて野菜の生産を行います。自然環境だけでなく、輸入過多による国内市場飽和などで、指定野菜の価格が著しく下落した際には、「指定野菜価格安定対策事業」によって「生産者補給金」の交付対象となります。これにより生産者の生活を支え、農業経営の安定を図ります。このように、指定野菜制度は野菜の需給バランスを整えることで販売価格の安定化を促進する狙いがあります。ただし、補助金の交付は「指定産地」で生産・出荷された指定野菜に限られています。

 指定野菜になることがきっかけで、経営の軸であるブロッコリーの信頼が高まり、事業としても拡張性があると判断できたため栽培面積を倍増させた生産者もいます。また、メディア等で指定野菜としてブロッコリーが取り上げられることで、作物自体の注目度が高まり、それが人材採用にも良い影響を与えているそうです。

西洋野菜のブロッコリー

食べている部分は花蕾

 かたい話はさておき、ブロッコリーに話を戻しましょう。

 ブロッコリーは、原産地を地中海東部とするケールが起源の野菜です。とても長い時間をかけて、ケールの葉が結球したものがキャベツ、根が発達して食用となったものがコールラビ、花の部分(花蕾)が食用になったものがブロッコリーとカリフラワーに分化していったといわれています。

 現在の形状のブロッコリーがいつ頃から食べられていたかは不明ですが、地中海沿岸では古くからケール起源の野菜を食べていたようです。その中でブロッコリーは、キプロスやクレタ島あたりからイタリア半島に伝播し、栽培が盛んになったのが15~16世紀頃。その後、イタリアからヨーロッパに普及したのは、17世紀頃といわれています。

今どきのカリフラワーは白だけではないのですよ!
畑の中でのブロッコリー。葉っぱの奥に花蕾があります

日本でのブロッコリーの人気

 日本には明治時代初めにカリフラワーとともに西洋野菜として導入されましたが、一般には普及しませんでした。第二次世界大戦後に、食の洋風化に伴って栽培が本格的に開始。初めは、"ハナヤサイ"という和名で消費が広がったカリフラワーの方が人気で、生産量、消費量ともに多かったのですが、国民の栄養意識が高まり、次第に緑黄色野菜であるブロッコリーの栄養価が評価され、その消費量が伸びたというわけです。

 モコモコした形状、きれいな緑色で、甘みがあって食べやすい。茹でてそのままマヨネーズを付けても、また、サラダやシチューなどの料理、お弁当の彩りにも最適です。

 アブラナ科の野菜のがん予防効果が期待され、新芽であるブロッコリースプラウトも人気です。また、野菜の中ではタンパク質量が多く、キャベツの約5倍、ダイコンの約13倍含まれています。マッチョマンたちが好んで食べる野菜となりました!

新鮮なブロッコリーは硬めに茹でただけでも美味しい!

*第2回目は、2025年9月2日号に掲載予定です。


プロフィール

吉川雅子(きっかわ まさこ)
マーケティングプランナー
日本野菜ソムリエ協会認定の野菜ソムリエ上級プロや青果物ブランディングマイスター、フードツーリズムマイスターなどの資格を持つ。

札幌市中央区で「アトリエまーくる」主宰し、料理教室や食のワークショップを開催し、原田知世・大泉洋主演の、2012年1月に公開された映画『しあわせのパン』では、フードスタイリストとして映画作りに参加し、北海道の農産物のPRを務める。

著書
『北海道チーズ工房めぐり』(北海道新聞出版センター)
『野菜ソムリエがおすすめする野菜のおいしいお店』(北海道新聞出版センター)
『野菜博士のおくりもの』(レシピと料理担当/中西出版)
『こんな近くに!札幌農業』(札幌農業と歩む会メンバーと共著/共同文化社)

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