HAL財団

「家業」から「地域企業」へ

WEB版HALだより「テキスト版」

2025年11月4日号 (通算25-14号)

畑作中心の十勝で西洋野菜を育てること①

*今回の「WEB版HALだより」は、野菜ソムリエとして大活躍の吉川雅子さんにお願いしました。

なお、この文章は、筆者及び筆者の所属する団体の見解であり当財団の公式見解ではありません。

*2回連載の第1回目となります。

レポート:吉川 雅子

竹中章さんとの初めての出会いは、2013年頃に遡ります。帯広在住の野菜ソムリエの紹介で雪が積もったリーキの畑を見せていただきました。その後はメールやSNSのやり取りを続けていましたが、リアルに再会したのは2020年10月。沖縄在住の野菜ソムリエが北海道の産地をいろいろ見て学びたいとのことで、ツアーのアテンドを計画しました。たまたま彼女が行きたい場所の一つが、それまでお付き合いのあった芽室町の生産者。そこを訪ねる2泊3日のツアーの中で「たけなかファーム」も訪問先に加えたことから、その後、十勝に行くたびに寄らせていただくようになりました。

今では引っ張りだこの「たけなかファーム」のリーキ。美しいリーキ畑を見ていると、畑作中心の十勝でリーキという西洋野菜を栽培し続けること、そして、それを販売につなげることなど、いろいろな苦労があったことを感じずにはいられません。

自らを"リーキマン"と称する章さんのリーキ魂をご紹介します。

2013年にお会いした時、雪が少し残る畑で
リーキを収穫するシーンが印象的
「リーキは寒さに強い」とおっしゃっていた章さん

十勝と言えば畑作中心のイメージ

1961年に制定された農業基本法以来、離農家の土地の獲得による経営規模の拡大と、畑作物の輪作による大規模畑作経営が展開することとなりました。特に、1970年代後半以降は小麦の作付けが増加し、1980年代初冬に十勝地方における小麦、てん菜、馬鈴しょ、豆類という4年連作体系が確立されます。

収穫間近の小麦

音更町の「たけなかファーム」は、1915(大正4)年に岐阜県から帯広川西に入植し、その後現在のところに移住します。ですから、北海道に移住したのは110年前になるのですね。

現在は60haほどの広大な農地で小麦やビート、豆(大豆、小豆、金時)、馬鈴しょ(メークイン)などの畑作のほかに、アスパラガス(グリーンとホワイト)、リーキ(西洋ネギ)、セロリアック、フェンネル、ベルギーエシャロットなどの西洋野菜、最近はパクチーも生産しています。

2025年10月15日のパクチーの畑
3日ずつ播種して出荷
ちなみにパクチーの播種は高校2年生の長男が担当しているそう

◆西洋野菜に挑戦するきっかけ

耳慣れない野菜名

「リーキ」とは、地中海沿岸原産のヒガンバナ科ネギ属の野菜。リーキは英語の呼び方で、フランス語では「ポアロ―」、日本では「西洋ネギ」や「ポロネギ」と呼ばれています。主にヨーロッパで生産されているネギで、茎が太く、根深ネギ(白い部分がある一般的なネギ)と似ています。しかし、根深ネギのように葉の中が空洞ではなく、扁平で厚みがあります。茎の白い部分は柔らかくて甘みがあり、ネギ特有の刺激臭もありません。生でも食べられるのですが、加熱調理をするとより甘みが引き立ちます。

輪切りにしてみると長ネギとは異なるのがよくわかります
白から緑へのグラデーションが美しい

「セロリアック」? 「セルリアック」ともいいますが、セリ科オランダミツバ属野菜。セロリの一変種ですが、セロリとは違い、肥大する根茎を食用とします。ほかの呼び方としては「セロリラブ」「根セロリ」、「芋セロリ」など。根茎は直径20㎝ 前後の球形に生長し、内部は白く、セロリに似た香りがあります。日本では長野県などでわずかに栽培されています。

上部はセロリのようなセロリアック
可食部は土に埋まった根の方

国内で知名度のないリーキを栽培しようと思った理由①

「たけなかファーム」がリーキの栽培を始めたのは2007年。きっかけはお世話になっていたシェフからの「フレンチに欠かせない食材のひとつ。作れないか」というひと声。リーキの本場・フランスに行ってみると、カラフルな野菜などが並ぶマルシェ(市場)で白と緑のコントラストが美しいリーキが売られ、訪れる客が次々と買い求めていたのに感動し、「自分でも作ってみたい」という気持ちが湧き、挑戦することにしたのだそうです。
しかし、今から20年も前に、先代たちが栽培していた農産物のほかに、国内でも稀有な野菜を作ってみようと思うきっかけが、そのひと声だけだったのでしょうか。

主に白い部分を食べるリーキ

国内で知名度のないリーキを栽培しようと思った理由②

1915(大正4)年、19歳で岐阜県から入植した章さんの曽祖父。その当時の北海道、そして十勝の様子は私には想像できません。ただ、文献やNHKの朝ドラなどから、荒れた土地を"開墾"して畑にし、タネをその土に落として畑を広げるということを何度も何度も繰り返すことで、今のような広大で肥沃な大地になったと知りました。

「私は小さいころから祖父の背中を見て育ちました。祖父は疲れ果てて、靴を履いたまま土間(玄関)で寝てしまったことが何度もありました。祖父や父たちが畑で黙々と働く姿がとても格好よく見えました」と話す章さん。だからこそ、自然と農業を継ごうと思ったのだそうです。

そして、先人たちが作り続けてきた作物に加え、「欲しい」という声に応えて、リーキを一から挑戦したいと思うようになったのです。

たけなかファームのリーキ畑

*第2回目は、2025年11月11日号に掲載予定です。


プロフィール

吉川雅子(きっかわ まさこ)
マーケティングプランナー
日本野菜ソムリエ協会認定の野菜ソムリエ上級プロや青果物ブランディングマイスター、フードツーリズムマイスターなどの資格を持つ。

札幌市中央区で「アトリエまーくる」主宰し、料理教室や食のワークショップを開催し、原田知世・大泉洋主演の、2012年1月に公開された映画『しあわせのパン』では、フードスタイリストとして映画作りに参加し、北海道の農産物のPRを務める。

著書
『北海道チーズ工房めぐり』(北海道新聞出版センター)
『野菜ソムリエがおすすめする野菜のおいしいお店』(北海道新聞出版センター)
『野菜博士のおくりもの』(レシピと料理担当/中西出版)
『こんな近くに!札幌農業』(札幌農業と歩む会メンバーと共著/共同文化社)

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