HAL財団

「家業」から「地域企業」へ

WEB版HALだより「テキスト版」

2025年11月11日号 (通算25-15号)

畑作中心の十勝で西洋野菜を育てること②

*今回の「WEB版HALだより」は、野菜ソムリエとして大活躍の吉川雅子さんにお願いしました。

なお、この文章は、筆者及び筆者の所属する団体の見解であり当財団の公式見解ではありません。

*2回連載の第2回目となります。

レポート:吉川 雅子

◆理想のリーキにたどり着くまで

こだわりの土

リーキの本場・フランスで見た美しさとその美味しさに魅了され、作ることを決めたリーキ。その後も、生産量の多いオランダやドイツなどに足を運び、栽培方法を学びました。「最初は国内のタネを使ってみたがうまくいかなかったので、海外から約50種類のタネを取り寄せて栽培し、最終的にオランダの品種に落ち着きました」。
有機物と微生物を畑に投入することで、微生物の働きにより作物が養分を吸収できるように手助けをするのが生産者の仕事だという章さん。父の代から畑に堆肥を投入し続けてきた結果、リーキはもちろん、さまざまな野菜も立派に生育しています。

力を入れている土
地力があるからこそすばらしいリーキが育つのですね

リーキの理想的形状

リーキと一般的な長ネギ(根深ネギ)の違いは、太さと緑色の葉の形状、そして香りです。根深ネギに比べると、リーキは太く、長ネギの直径の2~3倍程度の太さになることもあります。リーキの葉はV字に広がり、空洞はなく厚みがあって、ニラのように平ら。リーキはネギ特有の刺激臭が少なく、一般的な長ネギよりまろやかでクセが少ないのが特徴です。

リーキ畑で元気に育つリーキ
葉がV字に広がっているのがわかります
リーキをオリーブオイルで炒め、湯を足して煮込み、ミキサーにかけ、
塩とコショウのみで味付けたポタージュ
素材がいいので、シンプルな味付けが美味しい

長ネギは、夏場の出荷では軟白部が25cm以上、それ以外の時期は30cm以上を目安としています。その長さを確保するために、通常4~5回程度に分けて土寄せします。一方、リーキは溝を掘って植え付けます。長ネギのように土を高く盛りません。章さんが目指す理想のリーキは、"白・黄緑・緑の割合が1:1:1"。本場のフランスのリーキを目指しています。この理想的なバランスになるまでには、7~8年かかったそうです。

太さが半端じゃない「たけなかファーム」のリーキ

3月にハウスで播種、5月下旬に定植、10月下旬~11月下旬にかけて収穫するリーキ。生育期間は約7~8カ月と長ネギの倍以上かかります。収穫したものは順次農園の倉庫の大型冷蔵庫で保管され、汚れなどを取り除いて出荷されます。

◆珍しいからこそ販路を作り出す苦労

2人一組で、フランス製のリーキハーベスターを使って収穫します

自慢のリーキ、必死の販路探し

本場のリーキに近づけるため、現地の市場で確かめ、現地の生産者に学び、土地に合うタネ選びと栽培方法を確立するのに約10年もかかった理想形のリーキ。
しかし、西洋料理ではよく使われるリーキでも、国内ではほとんど知名度がありません。国内の洋食店でも輸入リーキを使うことも多く、販路開拓にはとても苦労したと言います。全国のミシュランの星付きレストランに現物を送るなどして地道に営業。その結果、主に関東のホテルや飲食店に出荷するほか、大手スープ専門店の冷製スープ「ビシソワーズ」にも採用されるようになりました。

努力を重ね、さらに販路拡大へ

飲食店以外に、年々生活者にも広がりを見せ、野菜としてのリーキを取り扱う青果店も増えました。その美味しさは、2024年1月に開催された「日本野菜ソムリエ協会」主催の「鍋野菜選手権」ネギ部門の金賞受賞でも証明されています。

私のオススメは、竹中さんも好きだという「リーキ入りのすき焼き」
煮込んでも存在感のあるリーキは肉のうま味も吸ってさらに美味しくいただけます

2025年10月15日に、東京のシェフやパティシエ、野菜ソムリエを連れて「たけなかファーム」を訪問しました。彼らは2年前にもファームを訪れており、その後、東京の青果店でもファームの野菜を購入しています。
章さんに、今年の生育状況をお聞きしました。「順調です。リーキやセロリアックの収穫はこれからが本格的。よくできているので、多くの方に食べてもらいたい」。

東京のシェフや野菜ソムリエと一緒に撮影!

音更町や帯広市内にも広がっています。音更町の小中学校の給食で使われたり、老舗パン店「満寿屋商店(本店:帯広)」では、シーズンになると各店で、たけなかファームのリーキを使ったパンが登場します。

「たけなかファーム」の帰りに立ち寄った「麦音」では
土日限定でリーキポタージュがパンと一緒に楽しめるそうです

代々守りながら広げていった大切な農地に、リーキという新しい作物を取り入れた章さん。先人たちが大変な苦労をしてきたことが手に取るようにわかるからこそ、リーキをはじめとする西洋野菜を大事に育て上げ、次世代につなげていこうと奮闘しています。


プロフィール

吉川雅子(きっかわ まさこ)
マーケティングプランナー
日本野菜ソムリエ協会認定の野菜ソムリエ上級プロや青果物ブランディングマイスター、フードツーリズムマイスターなどの資格を持つ。

札幌市中央区で「アトリエまーくる」主宰し、料理教室や食のワークショップを開催し、原田知世・大泉洋主演の、2012年1月に公開された映画『しあわせのパン』では、フードスタイリストとして映画作りに参加し、北海道の農産物のPRを務める。

著書
『北海道チーズ工房めぐり』(北海道新聞出版センター)
『野菜ソムリエがおすすめする野菜のおいしいお店』(北海道新聞出版センター)
『野菜博士のおくりもの』(レシピと料理担当/中西出版)
『こんな近くに!札幌農業』(札幌農業と歩む会メンバーと共著/共同文化社)

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