2025年12月2日号 (通算25-17号)
ガーデンの原型~農の風景から
イギリスでは農業生産者は国土の庭師(ガーデナー)だと言われているそうだ。農業をしていることで、食料生産だけではなく知らないうちに国土景観の庭師の役割を果たしている、という意味である。以前、HAL財団主催の緑化セミナーにおいて講師の白井真一さん(株式会社和泉園 代表取締役)が、千歳市のファーム花茶(第13回HAL農業賞優秀賞受賞)の景観について「農の風景がそのままガーデンとなっていて、これぞまさにガーデンの原型だ」と話していたことが思い出される。

菜の花畑が広がるファーム花茶

花茶オーナー自作のガーデンも
農業生産者が国土のガーデナーとして国土景観を作り出しているとすれば、市民もまた、まちのガーデナーとして自然豊かな景観を様々な所で作り出している。その一つの例が北海道ボールパークFビレッジ(通称「Fビレッジ」)だ。
Fビレッジ内には、四季折々で北海道らしいランドスケープを楽しめるガーデンがある。ガーデン全体のコンセプトは「北海道の新たな交流が生まれるガーデン」。そのガーデンでは、ガーデンデザイナーの柏倉一統氏と佐藤未季氏を中心に、恵庭市の花苗生産・卸業者の(株)サンガーデンの協力のもと、ガーデンサポーターが造園や植物のメンテナンスを行っている。ガーデンサポーターとは、Fビレッジ内ガーデンの景観を向上する活動に参加するボランティアの方々のことである。

翌年の成長に備えるため、枯れた花を摘み取る
昨年は、3つのガーデン内での活動だけではなくFビレッジ内の道沿いにひまわりを植える作業も。夏の青空の下、ひまわりはきれいに咲き、訪れる人々の目を楽しませていたが、それだけではない。咲き終わったひまわりは緑肥として土にすき込むのだ。ひまわりは景観美化としてはもちろんのこと、緑肥としても大活躍。ひまわりをすき込んだ土には、冬を迎える前に、湧別町から寄贈されたチューリップの球根を植えていた。

エスコンフィールドをバックに、咲き誇るひまわり

チューリップの球根

ガーデンサポーターが手際よく球根を植えていく
さらに今年は、新たな場所に畑を作りトウモロコシとジャガイモを植えることに。どちらも豊作だったが、トウモロコシは残念ながら、アライグマらしき動物が食べてしまったため、ジャガイモのみの収穫となった。
トウモロコシもジャガイモも野菜ではあるが、畑もガーデンの一つとして、周りの花や植物とともに道行く人の目を楽しませていた。ここでも、農の風景とガーデンが繋がっている。

ジャガイモの収穫中

Fビレッジは、様々な人たちが協力し合いエリアの価値を高めていく「共同創造空間」を目指しており、ガーデンの景観においても、ガーデンのデザイナー、花苗生産・造園会社、ガーデンサポーターが連携して取り組んでいる。
こうした、市民、企業、農業生産者がそれぞれの立場から協力し合い、ガーデンを軸としたまちづくりに取り組んでいるのが、全国有数の花苗生産地の恵庭市だ。恵庭市では、行政も協力し、「花のまちづくり」を行っている。花苗生産という農業が作り出す景観と、まちなかで市民が育てる花と緑とを大きく1つの風景としてとらえることができるのが恵庭市の魅力である。農の風景というガーデンの原型からさらなる進化を遂げたガーデンと言えるだろう。
(記事:総務部 山京)