HAL財団

WEB版HALだより「テキスト版」

2025年12月16日号 (通算25-18号)

美味しいが嬉しい~学校給食

 網走市で畑作を営む福田稔さんは2018年から畑でのお米づくりにチャレンジをしている。福田さんはでんぷん原料のバレイショやビール用麦、小麦やビートといった加工用作物を生産している農家だ。従って、普段は直接消費者からの声を聞くことはない。子どもたちに「美味しい」と言ってもらいたい、そんな思いから畑でのお米づくりに挑戦したのだ。

 初めのころは失敗の連続であったが、2022年に水稲品種ななつぼしで初めての収穫を経験した。翌2023年には22aの作付面積で1.3トンのお米を生産することができ、今後への確かな手ごたえを掴んだ。そして2024年は前年から5倍の面積となる1.2haの畑での稲作に挑戦し、6トンを超える収穫となった。そしてその年、福田さんはついに夢を少しだけかもしれないが叶えたのだった。

北海道米を取り上げた授業

 2024年11月8日、その日は訪れた。福田さんの夢であった学校給食に福田さんが育てたお米が使われたのだ。網走市の白鳥台小学校、東小学校、南小学校、第三中学校、第四中学校、合わせて5校では、福田さんが寄付したお米での米飯給食となったのだ。

 白鳥台小学校では、事前に北海道米について授業が行われ、福田さんからは児童に畑でお米を作るチャレンジについてお話があり、その後給食となった。

福田さんから児童にお話

 児童の中には、農家の子どももおり自分の家の畑でもお米を作ることができるのか?という質問も飛び出ていた。

 この学校給食は、学校側の裁量でメニューを決められるという制度で行われたもので、正規の学校給食として採用されたものではない。正式な学校給食に材料を提供するには、年間を通して安定的に供給されるなど多くの要件があり、現時点では福田さんの夢である「自分が作ったお米が学校給食に」をすべて叶えたわけではない。まだまだ超えなくてはいけないハードルがあるのだ。

 それでも、児童と一緒にお米の給食を食べる福田さんは満足の表情であった。

児童と一緒に福田さんも

 初めての学校給食へのお米提供を終えたが、福田さんのチャレンジはそこで完結したわけではない。まだまだ継続的に、実績を重ねていくことが重要なのである。

 2025年。今年も福田さんは学校給食へのお米提供を一つの目標としてお米づくりに励んだ。極端な暑さとなった2025年も変わらずにお米づくりに励んだのだ。

盛夏、カメラマンの前でポーズをとる福田さんご夫妻

 そのうえ、新たな設備投資を行い乾燥機、色彩選別機などを導入。今まで以上にお米に力を入れ、夢の実現に向けての挑戦は続いた。

新たに導入した機械類(乾燥設備)

 

新たに導入した機械類(色彩選別機)

 2025年11月6日。この日は網走小学校、第一中学校で福田さんが提供したお米での給食が実施された。さらに、11月13日には中央小学校、第二中学校でも同様に福田さんのお米での給食が実現した。児童生徒、さらには教職員を含め800人を超える人数のお米を提供したのだ。

 網走小学校では、福田さんご夫妻が児童と一緒に給食を食べるということで、私も取材としてお邪魔した。小学校では、写真のように福田さんのお米栽培の様子を壁新聞のように上手に作っており、非常に驚かされた。

壁新聞で福田さんのお米を紹介していた

 また、昨年に引き続き取材陣の多さにはビックリであった。テレビ局は2社、新聞は3社も来ていた。それだけ注目されているということだ。

 そして、当日は使うことはなかったが、福田さんの取り組みを応援しているバイオマスレジンホールディングスからお米由来の箸が提供され児童生徒にプレゼントされた。お米の新たな活用方法として、実際の商品を手に取り、見て、その可能性を感じることができただろう。

胸ポケットにはお米由来のお箸を

いよいよ給食の準備だ

いただきますが、待ち遠しい

児童に向けお話をする福田さん

 2024年に引き続き、2025年も網走市内の小中学校での給食を実現した福田さん。しかし、これはあくまでも学校独自での取り組みだ。目指すのは、正規の給食へのお米提供である。そのためには、食品としての安全性はもちろんだが、安定的な供給(年間を通しての必要量を提供できるか)が求められる。

たくさんの取材記者がちょっと物珍しい

 実際に網走市内全部の小中学校に提供するには、その量もまだまだ足りない。そしてそれは、福田さん一人だけではできないのだ。

 今後、多くの仲間、賛同者とともに網走の地で地元のお米を提供できることを目標に来年も再来年もお米づくりをしていくのだろう。

(取材・記事:企画室 上野貴之)

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