
2025年9月30日号 (通算25-12号)
農を支える、農と歩むVol.01
農業現場に取材、調査に赴くと必ずと言っていいほど他社、他の団体の方との新たな出会いがある。今回から不定期ながらも「農を支える、農と歩む」と銘打って私が農業現場で出会った方、企業、団体を紹介していく。
初回は、十勝で出会った輸出に力を入れている企業だ。
2025年7月。十勝を訪れたのは台湾の製パン会社(パン屋さん、パン職人)の一行だ。彼らは、北海道産小麦の現場を視察に来たのだ。

(企業説明をする満寿屋商店社長 杉山さん)

(台湾からの参加者)
この研修ツアーを企画したのは、 エバリッチエンタープライズ有限会社(以下、エバリッチ社)CEOの東さん。会社の合言葉は「日本の美味しさを世界に」。シンプルで分かりやすい合言葉だ。現在は、その合言葉のもと、中国をはじめアジア諸国との連携を軸に食の楽しみを世界に拡げているそうだ。
1967年に創業したエバリッチ社は、台湾と日本の食を専門とした貿易を中心にアジア各国で事業を展開している。食品、原材料だけにとどまらず、日本の食品技術や機械をアジア諸国の現地ニーズに合わせ提供・販売しているのだ。
その一環と言えるのだろう、今年3月には台湾・台北において開催された「2025 台北国際ベーカリーショー」に日本から3名のベーカリーシェフを講師として派遣。日本の製パン技術を台湾で広めることも行った。技術を広め、それに伴い農産品である「小麦粉」も広がる。そのような広い視野、長期的な視点で事業に取り組んでいることが分かる。その台湾に派遣したベーカリーシェフの一人が、満寿屋商店の天方さんであることから今回の研修ツアーが企画・実現したのだ。
4月から募集を開始したこの見学ツアー「2025年日本精實手作研習團」は、即座に定員。東京のピッツァの名店での夕食から始まるのだが、このお店で使用している小麦粉は北海道産小麦である。つまり、東京から始まるこの研修ツアーは、北海道産小麦を巡る研修でもあるのだ。
2日目は、東京を離れ空路で十勝に。十勝と言えば、広大な農地に広がる小麦畑だ。訪問したのは、本別町の前田農産食品の小麦畑。実際の小麦を見学し、収穫・貯蔵の工程を知ることができたという。その後、北農研に移動し育種についての説明を受けるという研修内容だ。企画した東氏はこの研修ツアーに同行したのだが、この北農研での研修に感銘を受けたという。新品種開発に至るまでの苦労や時間の長さに驚いたそうだ。

(満寿屋商店麦音でインタビューに答える、エバリッチエンタープライズ有限会社CEO東さん)
そして3日目は、いよいよ満寿屋商店の旗艦店である麦音での講習だ。麦音では、満寿屋商店の杉山社長から、なぜ北海道産、その中でも十勝産の小麦を使っているのか、さらに麦音の敷地内にある「麦畑」のお話があった。研修を受けていた人たちは店舗敷地内に小麦があることに驚き、麦に触り、地域の資源を大切にする企業スタンスを理解していた。
続いては、ベーカリーシェフの天方さん、キッチンシェフの馬渕さんによる実技講習だ。参加者は通訳を介してではあるが、積極的に質問をし、また聞き漏らすまいとメモを書いている姿が印象的だった。

(実技講習の場面)

(実技講習)

(講習を受けた方のノート。図説を入れて描いていた)
取材はこの時点で終えたが、翌日は美瑛町、さらには江別市の江別製粉の視察が予定されていた。実際に、北海道で小麦が生育している姿を見学し、さらにそれが地元の工場で製粉されて、パン屋さんでパンになる。ある面では非常に羨ましい状態なのだろう。
東氏に「なぜ北海道産小麦を扱い、それを見学するツアーを行っているのか」を訊いた。「北海道産小麦が好きだから」と即答だった。実際、言葉の端々から“北海道産小麦に惚れ込んでいる”のが伝わってきて、筆者も知らないことが数多出てきた。本当に北海道産小麦が好きなんだなぁ、と感じた。このような熱い思いが、きっと日本の農家、そして台湾や他の諸国の実際に利用するお客さんの信頼につながるのだろう。
(取材・記事:企画室 上野)
取材協力:エバリッチエンタープライズ有限会社
URL: https://everich.co.jp/
台湾の法人:東聚國際食品有限公司
URL: https://www.e-rich.tw/