HAL財団

「家業」から「地域企業」へ

WEB版HALだより「テキスト版」

2024年4月23日号(通算24-4号)

HAL財団企画広報室 今年のお仕事紹介

 HAL財団企画広報室の今年度予定している仕事を紹介します。

映像を使った広報

 2024年3月に贈呈式を行った第19回HAL農業賞の受賞者を今年も動画を制作し紹介いたします。
 また、今年度の企画として、過去にHAL農業賞を受賞した方、企業がその後どのような成長を遂げているのかを動画を使いレポートする企画を練っています。

 さらに、我々企画広報室のスタッフがカメラを担ぎ、現場に赴き、取材をすることにも力を入れていきます。慣れない撮影、編集作業にも挑戦します。

文字で伝える広報

 昨年から外部の方にWEB版HALだよりの執筆をお願いする回数を増やしています。今年はさらに回数、依頼先を増やしていきます。
 すでに野菜ソムリエの吉川雅子さん、別海バイオガス発電(株)の小菅加奈子さんなどと原稿の打合せを進めております。ご期待ください。

配信セミナーも

 今年は、配信セミナーにも挑戦します。
 タイムリーな話題をお伝えできるよう、講師や内容を検討しています。
 動画サイトYoutubeやZOOM会議などを利用し、双方向の質疑応答などにも対応できるようにする予定です。

トークセッション

 2023年1月、2024年1月に開催した「トークセッション」が好評でした。そこで、今年は「サマートークセッション」と通常の「トークセッション」と2回のトークセッションを検討しています。

 HAL財団の企画広報室は、スタッフ2名だけの小さな組織です。それでも、皆さまのご要望にはできるだけ対応していこうと考えています。
 ご意見、ご要望がありましたら、info@hal.or.jp までメールをお寄せください。

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1791/

2024年4月16日号(通算24-3号)

HAL財団事業部の仕事紹介

23期を迎えたHAL財団の事業年度。今年度はどのような業務を行っていくのか、2回に分けて組織ごとに紹介いたします。今回は、HAL財団事業部の業務内容です。

HAL財団事業部の仕事紹介

HAL財団事業部は、農業の企業化をはじめとして、地域農業のブランド力の向上、環境保全型農業の啓発と促進、農業や農村の持つ価値の創造や活性化、農業や農村の歴史・文化の理解と共感を深める活動、各種調査研究などを行うことで、北海道農業・農村の持つかけがえのない価値の創造を目指しています。今年度もこの目標を実現するために、これからご紹介する業務をスタッフ一同で取り組みます。

農業の企業化やブランド力の向上

農業経営及び地域農業の企業化をサポートするため、一般社団法人北海道農業法人協会などと共同で企業化に向けた経営力の向上や経営マインド、チャレンジ意欲の機運醸成、地域農業のブランド力の向上に向けたセミナー、講習会を開催します。

2023年12月18日 第5回次世代サミットを共催

環境保全型農業の普及啓発と促進

農産物の安全や安心の確保はもとより、労働安全の観点に立ち、国際規格となっているGLOBAL.G.A.P制度や特別栽培農産物の認証取得・維持を図るため、制度の説明会などを開催し、広く普及啓発を行います。

2023年11月21日 農業高等学校でのGLOBAL.G.A.P出前授業

農業や農村の持つ価値の創造や活性化

農産物の価値や農業の持続性を高め、地域の農業や農村の活性化を支援するため、公益財団法人はまなす財団と共催で地域づくり活動発掘・支援事業を実施します。

地域づくり活動発掘・支援事業に係る現地打合せ

「大地の侍」上映セミナー

北海道の農業・農村に対する理解と共感のすそ野を広げるため、2021年にスタートした映画「大地の侍」上映セミナー巡回プロジェクト。昨年度までに97回の開催と、3,900人を超える参加がありました。今年度も多くの皆様に参加していただけるよう、各地でこの取り組みを展開していきます。

2024.2.17札幌市資料館

小学校「農業科」の取り組み促進

北海道の農業・農村の新たな価値の創出のため、これまでの“農業を学ぶ”農業体験から“農業で学ぶ”を取り組みの方針とした「農業科」を広く促進します。

今年1月には、全国初の「農業科」を平成19年度から取り入れている福島県喜多方市から職員を招き、総合的な学習の時間を活用して「農業科」を昨年度スタートさせた美唄市ほか道内自治体、関係団体を対象とした情報交流会を開催しました。

2024.1.31情報交流会:喜多方市教育委員会による「農業科」の説明

静内農業高等学校との共同研究事業

企業的農業経営や地域農業等の持続的発展のため、今年度から、静内農業高等学校と連携した共同研究事業に取り組みます。

農業の6次産業化や環境保全型農業の実現、馬事文化の継承・発展に向けた取り組みを推進していきます。

ご意見、ご要望がありましたらinfo@hal.or.jp までメールをお寄せください。

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1779/

2024年4月9日号 (通算24-2号)

新任理事紹介

 4月1日付で理事に就任した理事を紹介します。

 
石島 力(いしじま ちから)
出身:旭川市 

略歴
 酪農学園大学酪農学部 獣医学科卒
 獣医師
 北海道環境生活部環境局生物多様性・エゾシカ対策担当局長
 学校法人酪農学園 酪農学園大学副学長
 学校法人酪農学園 常務理事
 学校法人高橋学園 札幌どうぶつ専門学校副校長

趣味
 城郭巡り

石島常務理事からのコメント
 この広大な北海道で今後、農業を始めてみたい方や既に起業している方々へ様々な視点から情報提供をしていきたいと思っています。
 これまで農業と異質であったり無縁と思われてきた様々な業種と大きな繋がりを持つことがじつは可能だったり、経営にあたって新たな方向性を示すヒントになったりしています。
このように、多くの方々がHAL財団の事業に触れて頂き、情報交換を通じて人脈を拡げ、北海道ならではの農業の姿を拡げていただきたいと思います。    
 そして、次世代を担う子供達へ農業の楽しさや豊かさなどを伝えていけたらと思っています。

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1774/

2024年4月2日号(通算24-1号)

HAL財団23期スタートです

平成15年(2003年)に設立されたHAL財団。4月から23期の事業がスタートします。

23期は理事の人数も変わります。従来の理事長、常務理事、非常勤理事2名という体制から理事長、専務理事、常務理事、非常勤理事2名という体制になります。

専務理事には今まで常務理事であった田尻忠三が昇任、また常務理事には4月1日付で石島力が就任しました。

石島常務理事は、次号(4月9日号)でプロフィールなどをご紹介いたします。

体制、事業計画はHAL財団WEBサイトトップページ、もしくは以下のURLからご覧ください。

体制: https://www.hal.or.jp/disclosure/system/
23期事業計画:https://www.hal.or.jp/disclosure/plan/

なお、22期の事業総括である決算、事業報告は承認後に公開いたします。

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1768/

2024年3月26日号(通算23-44号)

新評議員、新理事人事

 3月13日(水)に開催された臨時評議員会で次の人事が承認されましたので、お知らせいたします。

評議員 理事
小川 郁子(おがわ いくこ) 石島 力(いしじま ちから)
非常勤 常勤
現職:
北海道新聞社 ビジネス開発本部次長
略歴:
元北海道環境生活部環境局
 生物多様性・エゾシカ対策担当局長
前学校法人酪農学園常務理事
学校法人高橋学園
 札幌どうぶつ専門学校副校長

小川郁子は、3月13日から2025年の定時評議員会終結の時までの任期になります。
石島力は、2024年4月1日就任予定で、任期は2025年の定時評議員会終結の時までになります。

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1753/

2024年3月19日号(通算23-43号)

定例理事会・臨時評議員会を開催しました

 3月13日(水)に第6回理事会と臨時評議員会が開催されました。
 理事会では、23期(2024年4月~)の事業計画などが審議されました。詳しい事業計画は後日、財団公式サイトに公開します。

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1747/

2024年3月12日号(通算23-42号)

トークセッションの動画を公開します!

  2024年1月22日(月)に開催した『新しい農業のビジネスを考えるトークセッション キーワードは「できる・勝てる・儲かる・続く」だ!』

当日は、話題提供者を含めた参加者は約100名。熱気の中で報告と質疑が交わされました。その模様を公開いたします。13時半~18時までと実に4時間以上の長さですので、全編版と分割版でUPします。

動画URL: 
HAL財団主催 「新しい農業のビジネスを考えるトークセッション」【全編】
【全編 (03:42:56)】 → https://youtu.be/GZhGmAQ4pO4
【Chapter1 (28:54)】→ https://youtu.be/iIEoYSw5it4
【Chapter2 (26:44)】→ https://youtu.be/MMwhCfhRQo8
【Chapter3 (23:48)】→ https://youtu.be/hougnHS8u7o
【Chapter4 (19:39)】→ https://youtu.be/tJ0DTmve9Mw
【Chapter5 (36:14)】→ https://youtu.be/Lqs8Lcyu-YQ
【Chapter6 (29:47)】→ https://youtu.be/iSGHYQ7oS5c
【Chapter7 (24:56)】→ https://youtu.be/5WGdeoysarw
【Chapter8 (32:41)】→ https://youtu.be/ppbppNg2sJ4

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1739/

2024年3月5日号(通算 23-41号)

第19回 HAL農業賞贈呈式を開催しました

2024年3月1日、JRタワーホテル日航札幌で第19回HAL農業賞贈呈式を開催しました。今年のHAL農業賞は、長沼町の株式会社押谷ファーム、同じく長沼町の桂農園、 新篠津村の有限会社有限会社ファーム田中屋に優秀賞が贈られました。贈呈式では、表彰状と副賞が渡され、その後 HAL 財団役職員、ゲストとの懇談の場を設け、受賞者の皆さんと懇親を深めました。

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1733/

2024年2月27日号(通算23-40号)

書籍紹介 「幸せの条件」

今回は小説を紹介。
初版は2015年8月と10年近くも前になる。改版が出たのが2023年5月という本だ。誉田哲也著「幸せの条件」

ストーリーは、理化学実験用ガラス器機メーカーの「役立たず社員」瀬野梢恵に、まさかの社命が下された!それは、単身長野に赴き、新燃料と注目されるバイオエタノール用米栽培の協力農家の獲得だった。行く先々で断られ続け、なりゆきで農業見習いを始める梢恵。だが多くの出会いが、恋も仕事も中途半端だった彼女を変えてゆく―。

誉田哲也といえば幅広いテーマで小説を書くが「ストロベリーナイト」に代表される姫川玲子のシリーズや「ジウ」といった警察小説の印象が強いが、今回は農業がテーマである。

解説によると、十年余りに渡り構想を温め2011年7月から読売新聞社のウェブサイトで連載されたという。

主人公は、東京の小さな理化学ガラス機器を作る会社に勤める24歳の女性社員。大学理学部を卒業しているが、開発などの業務には携わることができない。しかも仕事の意欲はない。恋人ともうまくいかない。その主人公にある日転機が訪れる。社長から長野県に出張が命ぜられるのだ。その目的がバイオエタノール用のお米を作ってくれる農家を探すこと。

小説のなかで重要なポイントとなるのが、東日本大震災だ。震災に遭遇し、長野に移住。しかし、農業法人社長の従兄弟が福島県から長野県に越してくる。もう福島ではお米は作ることができない、と。

10年も前の作品であるが、お米を食べ物としてだけではなく、新たなエネルギー資材として捉えたり、農業現場と違う業種の「常識の違い」「言葉の違い」などなど、思い当たることが多々あるのだ。私にとっては「あぁ、そうそう」「なるほど」「同じだ」となるのだ。

そして、誉田哲也が本書でテーマとした課題はどうなっているのだろう、と気になる。解説を記した読売新聞メディア局の田中昌義記者の文を一部紹介しよう。

「ところで、誉田さんが本作で示した社会課題は今、どんな状況にあるのだろうか。カーボンニュートラル(脱炭素)社会実現のための切り札の一つとして期待されるバイオエタノールについては、我が国では高コストという経済性の問題などがネックとなり、今のところ幅広い分野で普及しているとは言い難い。ただ、世界中でサステナブル(持続可能)な社会に向けた取り組みが進む中、国内でも新たな動きが出てきている。」と記している。

今まさに話題となっているのが、カーボンニュートラルだ。これからの農業界が直面する課題の一つだ。

私がこの本に強く惹かれたのは、とにもかくにも農業の現場がイキイキと描かれ、魅力的な職業であることが伝わってくるからだ。もちろん、人間関係や繁忙期の忙しさ、多くの多くの大変さも書かれている。しっかり取材したことが分かる。

そして、農業は農業だけではなく、他の産業と連携する必要があったり、新しい収益の基軸になる「可能性」をも追いかける姿が丁寧に描かれているからだ。

誉田哲也が得意とする人物像。葛藤、悩み、そしてそれを突き破る姿。非常にさわやかな気持ちになる小説だ。

(HAL財団 上野貴之記)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1726/

2024年2月20日号(通算23-39号)

農業経営レポート

 

“ “Seek out innovators” を掲載します。

                             

 筆者の梶山氏は元農水省職員。現在は、千葉県で一般社団法人フードロスゼロシステムズ代表理事、特定行政書士として活躍中。

前回(2023年12月5日号(通算23-28号))に続く農業経営の視点からのレポートです。

 それでは、この先はレポートになります。

 なお、この文章は、筆者個人の見解であり当財団の公式見解ではありません。


“Seek out innovators”Ⅲ ~東海地域での『乾田直播』の取り組み~

 レポート:梶山正信

Ⅰ セミナー概要

1.セミナーについて

(1)有限会社サポートいびの主催で、2023年8月9日午後に岐阜県揖斐郡池田町の東公民館で2部構成により開催された「未来につなぐ農業Ⅱ直播現地検討会in岐⾩」に参加したので、その模様をレポートする。
1部はメインの会場でのセミナーであり、2部は会場すぐそばの乾田直播の水稲を徒歩で見る内容であった。本記事では、第1部の会場でのセミナー模様をお伝えする。

(2)このセミナーのモデレーターは、北海道共和町での山本氏の水無し水田の取り組みをサポートしているバイオシード・テクノロジーズ(株)の広瀬氏であった。
 参加登壇された皆さんは現在の農業業界では著名な方も多く、そこでの話題が今の農業経営の枠を超えた視点を持っており、とても異彩を放っていた。今回は、私が特にイノベーティブだと感じた内容について記述する。

<当日の第1部セミナーでの壇上での登壇者>

2.本セミナー

(1)当日の13時30分から本セミナーが開始された。主催者の高橋氏の開会挨拶で始まり、最初の事例紹介は農研機構西日本農業研究センターの岡本氏からの「滋賀県における乾田直播栽培の取り組み」であった。
 私が驚いたのは、事例にあげられていた乾田直播10.2俵(614㎏)が、その対象区として通常の移植(田植え)で10.4俵(626㎏)と殆ど見劣りしない収量が得られているということだった。そして、それ以上の驚きは、この作付け体系を導入すれば効率的に大きな面積をたった一人でこなせることで、労働時間を現状から4割減にすることが可能であるということであった。
このことにより、農林水産省OBの私としては、現状から大幅なコメの生産費コストの削減が可能になるという説明が、農研機構という公的な機関から冒頭に説明されたことにまず驚いた。

(2)私も、WEB版HALだよりに掲載している「Seek out innovator」で2回に渡って北海道共和町での山本氏の水無し水田の取り組みについて経営分析を行っている。その時の分析では、現状より労働時間を1/2から1/3に削減出来ているという山本氏の実態から計算しているところである。確かに、そのことと比較すれば乾田直播で労働時間の4割減というのは、十分に可能な数字ではないと説明を聞いていて素直に感じた。
 その説明を経て、モデレーターの広瀬氏がヤマガタデザイン(株)の中條氏に現状での同社の乾田直播の取り組みについて、そして将来の見通しについて口頭で話を求めた。まさに、その内容がまさしくイノベーティブな内容で、農業経営の視点として本当に驚くレベルでの内容だった。

(3)現状で農林水産省が公表している最新の統計データでは、日本の水稲の1戸当たりの平均面積は約1haで、その労働時間は216時間となっている。しかし、中條氏の説明では、同社ではそれが半分以下の100時間(一反10時間)程度だという。そして、将来目指すべき不耕起での乾田直播の理想的な体系が確立できれば、今やっている20haでも100時間をやや超えるレベルまでなら労働時間の削減が可能であると話があった。
 これは労働時間で言えば、同社の現状に比して1/20というレベルになる。これを基に試算すると1俵60㎏当たりの価格を6,000円以下にすることができる。つまり、日本の米で100円/kgを切るレベルまで価格を下げることが可能になる。(算定式)
 これは、今の国が公の目標にしているレベルをはるかに下回る価格である。それがいかに困難かを農林水産省OBとしては知っているので、再度農林水産省での最新の公表資料※でのコメの生産費の比較をしても、本当にそれが現実のものだとは、納得できなかったのである。

(4)その後に続々と登壇者の発言が続き、その中でもトゥリーアンドノーフ(株)の徳本氏も、自らも不耕起栽培にチャレンジしており、それが可能だと考えているとあった。さらにグローバルな視点を加え、GM作物や食用以外での活用も視野に入れていけば、それが十分可能なレベルだとの話だった。その時点で、私は本当にこれが実現可能だと確信に変わった。
 勿論、そのためには冒頭のプレゼンテーションを行った農研機構西日本農業研究センター岡本氏の乾田直播の作付け体系に、更に最新のテクノロジーである不耕起栽培技術を組み合わせが必要である。これは、日本の水稲栽培では今まで誰も経験していないことでの作付け体系のスキルが必要であることは言うまでもない。であれば、このようなことは今までの前例やしがらみなどをものともしない本セミナーの登壇者のようなイノベーターが日本で実現するしかないと感じた。

(5)現在の食料事情は、地球の人口増加で今後も続くであろう。そして、高騰する食料事情、またウクライナ問題等で現実のものとなった不安定な地政学の状況を考えれば今後も食に関する価格は上昇することはあっても下落することはまず考えられない。
 現状、日本のコメの生産は減少の一途だが、もし将来、これが日本で当たり前に実現されれば、コメの増産に転換することが出来るのではないだろうか。そして、日本は再び世界の生産国の上位に返り咲くことも可能ではないかと感じた。

3.北海道共和町での水無し水田の取り組みとのシナジーについて

(1)私は昨年今年と北海道共和町の山本氏が取り組んでいる水無し水田の取材している。山本氏は、初めての昨年は試験的に40aから水無し水田の取組を始めたが、今年はそれを一気に10倍の4haに拡大している。また、一部の酒米(移植)以外は、品種はコシヒカリとホシヒメでほぼ水無し水田での作付けに転換をして成功している。
 5月末時点の苗立ちの時期に圃場にお邪魔したが、現状、水無しで生育は順調であると聞いている。今年はやや分げつが少ないので、昨年よりやや収量は落ちるかもしれないが、このままなら収穫まで水無しでも、今年も生育は問題なさそうだとのことであった。

(2)山本氏も乾田直播での水無し水田技術、更に本セミナーで中條氏から話があった不耕起栽培に非常に興味があるとのことである。今後、水無し水田の面積を拡大する際には、その作付け体系の技術を取り入れたいとの意向もあるようだ。
 勿論、その進展具合は、今の水無し水田での取り組んだ結果と今後の水田の集積状況によるとは考える。ただ、現状が共和町の水田の多くが今後の作付けの継続が困難である状況からも、地元で担い手である山本氏に集積が進むであろうことは明らかだと私は感じている。

(3)今回のセミナー後に山本氏には私から乾田直播に不耕起栽培の技術を取り入れれば、水田の労働時間も、更に1/20にすることも可能だという内容を伝えた。山本氏も、私にそのレベルまで行くことが可能ではないかとの確かな返答があった。
 私にとっては本当にそんなことが可能なのかという内容であっても、イノベーターの思考を持っている皆さんには、ある種の破壊的イノベーションのイメージで日本の水稲を考え、実践していることに改めて驚かされた。

(4)北海道共和町の山本氏が、先駆的に確立した水無し水田の技術に、面積拡大に合わせて不耕起栽培の技術を将来導入し、中條氏に負けないレベルの労働時間の削減を実現することを願ってやまない。
 私は今後もイノベーターである山本氏の取組を注視していくこととしている。

<乾田直播の水田の様子。2023.8.9撮影>

Ⅱ 当日の乾田直播の圃場の状況

1.圃場での水稲の生育について

(1)乾田直播では、圃場で播種後に一定の高さに苗立ちした時点で、水入れを行うこととしている。ただ、説明をされたサポートいびの高橋氏は「必要があれば灌水を行うが、それまでは水無し水田を維持する」と、果敢にチャレンジしたいとことであった。

(2)北海道共和町で水無し水田に取組んでいる山本氏も同じで、いざという時は灌水できるようには圃場の対応はしている。これは農業では天候リスクがあるのは当たり前であり、特にこのような新技術での取組みであればそのためのリスクヘッジを二重三重にするのが、まさしく真の経営者であると感じた。

(3)この写真は、播種機でのドリル播種から約4ヶ月程度経過した乾田直播の水稲の状況である。この場所では灌水しなくても順調に生育をしていることから出来るだけこのままでチャレンジをしたいとあった。
ただ、場所によっては灌水しているところもあるので、乾田直播での生育 は順調だが全てがこのような水無し水田ではないことにはご留意願いたいと高橋氏からあった。

Ⅲ まとめ

今回のセミナーでは私も登壇者として北海道共和町での取り組みについて発言を求めらた。私からは「農業ではよく経営者の給与を全く考えない経営がなされているのを散見するが、まずそれが法人の経営者としては全くあり得ない。例えば、経営者である以上、時給1万円のレベルを目指すなど、農業でも経営者であれば明確に労働時間でのコスト意識を持つべきだ」とお話した。

  • 私がこの会場に来て一番驚いたのは、今回の会場は岐阜県でも交通の便が良い市内の中心地ではなく、言い方はあまり良くないが、田舎町出身の私から見ても同じようだと思えるような地域の一公民館であったにも関わらず140名を超える農業関係者が全国から集まったことである。さらにそこに農業関係では知らない人が居ないような著名な方が多数登壇していたということだ。この乾田直播の技術に対する興味、並々ならぬ生産者のニーズの高さを強く感じたところである。
  • 最後に、農林水産省OBとして、そして国産農林水産物の消費拡大国民運動の責任者として志を持って農林水産省で勤務してきた上での希望を記す。1966年に1,400万トン超の生産量があったコメが、最新の令和5年の予測値では693万トンと1/2以下になり、昨年の726万トンから大きく減少するのが確実な状況にある。日本では毎年コメの消費量は減少を続けており、少子高齢化の進展とも相まって、近年、毎年8万トン程度の減少が続いていたのが、更に拡大している危機的現状にある。このままいけば、瑞穂の国と言われた日本の伝統であるコメの生産優位性が世界から忘れ去られかねないレベルまで低下するのは火を見るよりも明らかである。本日ここに参加できたことで、今一度、このようなイノベーターの方々による素晴らしい農業技術の進展で、再び世界からコメで一目置かれるような日本の農業の未来が来ることに強い希望を持つことが出来た、素晴らしい内容のセミナーであった。

※:農林水産省「稲作の現状とその課題について」、「生産及び統計」、「作物統計」等

梶山正信
一般社団法人フードロスゼロシステムズ代表理事(特定行政書士)

筆者プロフィール
 1961年生まれ 
 2021年まで農林水産省に勤め、現在は一般社団法人フードロスゼロシステムズ代表理事、特定行政書士として活躍中
 2023年からは、早稲田大学招聘研究員として、カーボンニュートラル、地域活性化等を学んでいる。

━以上━

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1717/