HAL財団

「家業」から「地域企業」へ

WEB版HALだより「テキスト版」

2024年1月23日号 (通算23-36号)

ご存知でしたか? 小さな最中の大きな変化を!

*今回の「WEB版HALだより」は、野菜ソムリエとして大活躍の吉川雅子さんにお願いしました。

レポート:吉川 雅子

ご存知でしたか? 菓子メーカーの「六花亭」の「ひとつ鍋」のパッケージが去年の秋から変わっていることを。
鍋型の最中。若い時はそれほど心を動かすお菓子ではありませんでした。しかし、こういうお菓子が美味しいと思うお年頃になったようです。
「あ、中身がちょっと変わったのね」というだけではない“ステキな物語”をご紹介します。

◇豆のお話

~ちょっと豆の歴史を紐解いてみます!~

豆類は、人類が穀類に次いで最も古くから食用栽培した植物といわれています。私たち、日本人にとってもなじみ深い食材であり、さまざまな種類の豆類がいろいろな形で利用されています。
それらのほとんどが中国を経由して日本に伝わっています。大豆が弥生時代の初期に、小豆が飛鳥時代に、えんどう豆やそら豆は8世紀頃伝わったとされています。ただ、古代の遺跡から小豆の種子が出土されている例では日本が最も古いことから、小豆は日本が起源という説もあります。いんげん豆は中央アメリカから南アメリカが原産地と考えられ、ヨーロッパ経由で中国に伝わり、江戸時代に中国の渡来僧の隠元によって伝えられたという説が一般的です。

(いろいろな豆)

「大福豆(おおふくまめ)」と「手亡豆(てぼうまめ)」は同じく白い豆ですが!

豆には大きく「つる性」とつるなしの「わい性」に分けられます。つる性の豆の中でも、「大福豆」と「虎豆」「白花豆」「紫花豆」の4品目は「高級菜豆(さいとう)」と呼ばれています。これらは芽が出て、つるを出し、主茎頂部に花房を着けず、周囲のものに巻きつきながら伸長を続けます。草丈は3メートルほどにも及ぶため、「手竹(てだけ)」と呼ばれる長さ3メートル弱の竹製の支柱を用いて栽培します。
一方、わい性の「手亡豆」や「金時豆」は、主茎頂部に花房が着き、分枝して横に広がります。草丈は55~65センチメートル程度で、栽培時に支柱は不要です。
「大福豆」などつる性の豆は多くの手間がかかるため、わい性の菜豆よりも価格が高く流通されていたことから「高級菜豆」と呼ばれるようになったのです。

<言われないとわからない小さな変化>

◇「六花亭」の人気商品「ひとつ鍋」

「六花亭」の初代社長・小田豊四郎氏は、帯広の開拓をお菓子で表現しようと考え、“十勝開拓の父”とも呼ばれる依田勉三(べんぞう)の資料を読みあさりました。その中で「開墾のはじめは豚とひとつ鍋」という句を知ることになります。
そののち、鍋の形をした最中の中に餡と求肥が入っている人気の商品となります(白餡のほかに小倉餡とこし餡がある)。
最初の「ひとつ鍋」の白餡は100%大福豆だったそうです。途中から値段の乱高下があったため、商品を安定供給するために大福豆と手亡をブレンドした白餡として提供を始めることになります。

◇白餡から「大福豆」へのきっかけ

浦幌町の畑作農家の十字農園の十字満さんは、5年ほど前に「六花亭で使う大福豆を栽培してくれる生産者を探している」という話を聞き、自分でも栽培してみようと思ったそうです。当時、地域では支柱として竹を必要とする豆では白花豆の栽培を推奨し、ほかの豆を栽培しようとする生産者はいませんでした。それは同じような形をしている大福豆よりも粒が大きい白花豆の利益率が高いからです。

「なぜ、十字さんは大福豆を作ってみようと思ったのですか?」
「六花亭のお菓子が好きだったし、栽培した豆が六花亭で使われるとわかっていることに魅力を感じました」。

栽培に取り組む際に関係者に確認したことがあるそうです。
「今栽培している白花豆よりも利益率の低い大福豆に取り組むには、今の自分たちの労働力やノウハウでは難しい」と。
そう投げかけた際に、「今の白餡のひとつ鍋は、いずれは大福豆100%の餡に戻すのが目標だ」と聞き、本当に必要な豆であると確認。「自分もその手伝いをしたいと思い、自分の農業の目標の一つにもなった」と言います。

◇手間暇がかかる大福豆栽培

最初は経験もノウハウも何もない、実験のような栽培から始まりました。作業によっては人手もかかることから、企業に応援を頼むといった協力関係の構築をしながらコツコツと続けました。
大福豆は5月下旬の種まきから始まります。発芽が揃い始めるとつるが伸び始めるので、4株を1組として4本の手竹を株の横に挿し込み、上部を交差させてゴムバンドで結束します(「竹さし」)。この作業は2人1組で行います。さらにつるが伸びてくると「つる上げ」といって専用テープなどで支柱から外れたつるを縛って固定します。その後、手作業による除草を繰り返します。7月後半には白い小さな花が咲き始めます。8月下旬から9月中旬は「登熟期」といって中の子実が膨らんできます。十分に大きく成長した子実は水分が抜け、鞘や子実が硬くなる「成熟期」を迎えます。そうなったら、根と茎を切る「つる切り」を行います。そのまま置き、10月上旬から中旬にかけて「ニオ積み」という作業を行います。竹を抜き、ひとまとめにして雨よけのテントをかけて1カ月ほど自然乾燥させます。この作業が一番大変だそうです。2~3人1組で行いますが、十分に大きくなったつるなので重さもあり、さらに自分の背丈よりも長い竹を抜いたりするのが本当に大変。その後は脱穀機による脱穀、手竹の片付けなど続きます。

☆ニオ積み体験

昨年11月、私は東京の知人たちと十字農園を訪れました。ちょうど大福豆のニオ積み作業の時期でした。大して役に立たない3時間ほどのお手伝いでしたが、終了時には肩や腕が痛くなっていました。これを広大な畑全部をするのは並大抵なことではないと痛感しました。

(大福豆)

(十字農園看板)

(やり方を教わる私たち)

(枯れたつると支柱の竹を抜き取る!)

(支柱とつるを分ける)

(支柱とつるを分ける 支柱は長くて抜くのが大変!)

(枯れたつるを女性の背丈くらいに積む)

(数時間でもお役に立ったかな) 

(雨に当たらないようにブルーシートをかける)

(上空から見たニオ積みが終了した大福豆の畑)

(収穫前の小豆。小豆は丈が低いから支柱がいらない)

◇5年の歳月がかかって実現!

毎年、大福豆の栽培面積を少しずつ増やし、効率性を重視したノウハウを蓄積させながら収穫量を増やしていきました。ここ何年かで、十字農園をはじめ数軒の十勝の生産者や他産地の協力で一定量の大福豆の供給ができるようになりました。
そうして、5年目の昨年11月10日、大福豆100%の「大福餡」が復活したのです。
十字農園はおよそ20ヘクタールの畑で、小豆や大豆、黒豆のほかにもいろいろな豆、小麦、ビート、ジャガイモなどを栽培しています。そのうち2023年は3ヘクタールほどが大福豆です。
大福豆の栽培面積が大きくなるにつれ、「ニオ積み」に関心のある道内外からの人たちが年々増加しています。また、六花亭の社員で、会社の許可をもらって援農する有志のグループが来ていて、昨年は延べ17人の社員の方が参加したそうです。
新しくなった小さなお菓子の餡には、時間をかけた、さまざまな思いが込められた物語が詰まっているのです。

最後に、
「十字さんにとって大福豆とは?」
「周囲で大福豆を栽培している人がいなくてノウハウが少なかったことが、逆に自分で一からチャレンジできる作物としてのおもしろさを与えてくれました。栽培はとても大変ですが、ひと手間かけると応えてくれる豆だいうことにも気付きました。そして、何よりも、六花亭をはじめ、農作業に携わりたいと畑に来てくれる農業以外の人たちの数が年々増え、その人たちとの縁を繋いでくれた大切な豆です」。
11月10日の販売初日、「大福豆」と書かれた新しい白餡の「ひとつ鍋」を求めに行きました。この5年にも及ぶ物語に、ほんの少しですが、偶然にも関わることができたことが嬉しくて、しっかりとコーヒーとともに味わいました。

(販売当日(地元の新聞広告))


プロフィール
吉川雅子(きっかわ まさこ)
マーケティングプランナー
日本野菜ソムリエ協会認定の野菜ソムリエ上級プロや青果物ブランディングマイスター、フードツーリズムマイスターなどの資格を持つ。

札幌市中央区で「アトリエまーくる」主宰し、料理教室や食のワークショップを開催し、原田知世・大泉洋主演の、2012年1月に公開された映画『しあわせのパン』では、フードスタイリストとして映画作りに参加し、北海道の農産物のPRを務める。
著書
『北海道チーズ工房めぐり』(北海道新聞出版センター)
『野菜ソムリエがおすすめする野菜のおいしいお店』(北海道新聞出版センター)
『野菜博士のおくりもの』(レシピと料理担当/中西出版)
『こんな近くに!札幌農業』(札幌農業と歩む会メンバーと共著/共同文化社)

取材協力:十字農園 十字満 https://www.instagram.com/jmitsuru/

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1684/

2024年1月16日号 (通算23-35号)

書籍紹介 仕事の成果が上がる「自分ごと化」の法則

話題の書籍のご紹介。
「仕事の成果が上がる「自分ごと化」の法則」 千林 紀子著、‎ 有隣堂発行。

書籍の帯にはこう書かれている

「そうか、こう考えれば
楽しくできる!」

それを「自分ごと化」として一つの法則を経験してきた筆者。現在は、アサヒグループ初の女性社長として世界中を駆け巡っている。

出版社の案内には、
「一生懸命に仕事をしているのに、成果が出ない」と悩んでいるあなたに贈る1冊。そんなときには、仕事に「自分ごと化」して対処しませんか?

「自分ごと化」とは、お客様の課題や困りごとに対して、「自分ごと」と受け止めて行動することや全社視点で「良い意味でのお節介」をしていくことです。


筆者の千林さんは私より少し年下。そういえば、私の会社員時代の後輩たちも同じような壁にぶつかりながらも前に進んで行ってたなぁ、と思い出す。

考え方ひとつで違った見方や進み方が見つかると思う。そして、本書の中に記されていた「良いメンター(先輩)」との出会いが重要なことだなぁ、と改めて感じた。

メンターというのは、年上の先輩ということだけではない。年下でも経験豊富な人はメンターになる。そういうメンターの声を聞きいれることができるのもセンスだと思う。

農業経営の責任者にも、スタッフの一人にもお勧めの1冊だ。

(HAL財団 上野貴之記)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1679/

2024年1月9日号 (通算23-34号)

第19回HAL農業賞選考中

今回で第19回目となるHAL農業賞。
内部審査を経て、外部選考委員、アンバサダーも加わった1回目の選考委員会が開催されました。

1月中旬に第2回目の選考委員会を経て、今期のHAL農業賞が決定する予定です。

(HAL財団 上野貴之記)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1671/

2023年12月26日号 (通算23-33号)

HAL財団 年末年始のご案内

HAL財団の年末年始休業日は以下の通りになります。

■年末年始休業日
2023年12月28日(木)午後~2024年1月5日(金)

1月4日(木)、5日(金)は職員有給休暇取得促進日としています。ご了承ください。

※2024年1月9日(火)から、通常業務を行います。

(HAL財団 企画広報室)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1666/

2023年12月19日号 (通算23-32号)

財団職員のコンプライアンス研修を行いました。

HAL財団の常勤役職員を対象としたコンプライアンス研修を実施しました。
今回は、業務に関わる「著作権」を中心に学びました。
講師は、財団顧問弁護士の房川・平尾法律事務所から平尾弁護士に来ていただきました。
国内で発生した企業や団体の著作権に関する法令違反の実例を通して、どのようなことに注意すべきかを学び、日々の実際の業務で注意する点を習いました

SNSなど簡単に情報を発信することができるようになりましたが、どのような部分に注意すべきかは知っておかなくてはいけません。このようなコンプライアンス研修は、農業法人や農業経営でも必要と思います。ご要望があればHAL財団でどのような研修が必要かをご提案することも可能です。ぜひ、ご相談ください。

相談は、 メール:info@hal.or.jp までお願いいたします。

(HAL財団 上野貴之記)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1660/

2023年12月14日号(通算23-31号)

新しい農業のビジネスを考えるトークセッション 満員御礼

満員御礼!

トークセッション第2弾は、大好評につき定員に達しました。
また、興味のあるセッションを企画します。
ご応募、ありがとうございました。

2023年1月に開催したトークセッション。大好評だったので、その第2弾を開催します。 

キーワードは「できる・勝てる・儲かる・続く」だ!
 現在、農業界は、肥料、飼料のかつてないほどの急激な高騰や海外産原材料の輸入不安定という状況に置かれ、先行きが非常に不透明になっており、従来の農業政策だけでは解決が難しくなっています。そこで、従来から地道に農業分野と連携を視野に企業活動を行ってきた企業、団体とともに、解決策を見出していくべく第2弾となる「トークセッション」を企画しました。

【開催概要】
日時:2024年1月22日(月)
             13時受付  
             13時半開演 :
                                 
 参加費:無料
会場:かでる2.7 820 研修室
住所:札幌市中央区北2条西7丁目 道民活動センタービル 8階
 
【申し込み方法】
 事前メールで受け付け(先着順)
受付期間: 2023年12月14日(木)~12月22日(金) 定員に達し次第終了
申し込み先:HAL財団 専用受付メール kogane@hal.or.jp
  ★お名前、メールアドレス、所属(屋号、会社、団体)、ご住所、電話番号を記載の上、お申込みください。先着順です。参加番号(参加チケット)をメールでお送りします。

定員 :農業従事者:50人(MAX)     関連企業・団体:20人(MAX)
     スピーカー、運営:20人

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1656/

2023年12月14日号(通算23-30号)

年明け開催 決定!トークセッション第2弾
新しい農業のビジネスを考えるトークセッション

 2023年1月に開催したトークセッション。大好評だったので、その第2弾を開催します。 
キーワードは「できる・勝てる・儲かる・続く」だ!

 現在、農業界は、肥料、飼料のかつてないほどの急激な高騰や海外産原材料の輸入不安定という状況に置かれ、先行きが非常に不透明になっており、従来の農業政策だけでは解決が難しくなっています。そこで、従来から地道に農業分野と連携を視野に企業活動を行ってきた企業、団体とともに、解決策を見出していくべく第2弾となる「トークセッション」を企画しました。

【開催概要】

日時:2024年1月22日(月)
             12時45分: 受付開始
             13時半開演 :
             13:30~17:00 スピーカーによるテーマトーク
             17:00~17:20 整理の時間
             17:30~18:00 会場参加者とスピーカーのセッション

(質疑応答)
             18:30~ トークセッション 2部 (懇談を兼ねて)

                    

参加費:無料

会場:かでる2.7 820 研修室

住所:札幌市中央区北2条西7丁目 道民活動センタービル 8階

 

【申し込み方法】

事前メールで受け付け(先着順)

受付期間: 2023年12月14日(木)~12月22日(金) 定員に達し次第終了
申し込み先:HAL財団 専用受付メール kogane@hal.or.jp
  ★お名前、メールアドレス、所属(屋号、会社、団体)、ご住所、電話番号を記載の上、お申込みください。先着順です。参加番号(参加チケット)をメールでお送りします。

定員 :

農業従事者:50人(MAX)
関連企業・団体:20人(MAX)
スピーカー、運営:20人

 

スピーカー(話題提供者) (企業、団体名の五十音順) 2023年12月1日予定

  • アサヒバイオサイクル(株) サステナビリティ事業本部 
                     アグリ事業部長    上籔 寛士氏
                     アグリ事業部担当部長 北川 隆徳氏
  • SDPグローバル株式会社 取締役 研究・開発担当 鈴木 一充氏
  • 合同会社 共和町ぴかいちファーム 代表社員 山本 耕拓氏
  • グラントマト(株) 代表取締役社長  南條 浩氏
  • トゥリーアンドノーフ株式会社代表取締役  徳本 修一氏
  • バイオシードテクノロジーズ株式会社 代表取締役社長 広瀬 陽一郎氏
                         アドバイザー  池田 陸郎氏
  • 株式会社バイオマスレジンホールディングス 代表取締役/CEO 神谷 雄仁氏
                            取締役副社長 ナカヤチ 美昭氏
  • 福田農場            農園主   福田 稔氏 (網走市)
  • 別海バイオガス発電(株)   営業部長  小菅 加奈子氏
  • 株式会社ペントフォーク     代表取締役社長 伊藤 武範氏
  • YAMAGATA DESIGN AGRI株式会社  専務取締役  中條 大希氏

実行委員会メンバー

・川合 雅記さん(秩父別町)   ・伊藤 敏彦さん(別海町)
・今井 貴祐さん(小清水町)   ・木村 加奈子さん(別海町)
・伊藤 儀さん (弟子屈)     ・山本 耕拓さん(共和町)
・神馬 悟さん (南幌町)     ・福田 稔さん(網走市)

進行役(仕切り役)予定

・札幌農業と歩む会会長  三部 英二氏(元札幌市農政部長)
・HAL財団 企画広報室長  上野 貴之

進め方

  1. スピーカーからそれぞれの立場で北海道農業とどのような関わり、新たな関わりを持とうとしているのかをお話してもらいます。
  2. 会場参加者から随時質問を受け付け、トークセッションをします。
  3. スピーカーと個別の対応を希望する方は、セッション終了後に時間を設けます。

主催 一般財団法人 HAL財団 / 新しい農業のビジネスを考えるトークセッション実行委員会
協賛:アサヒバイオサイクル株式会社
バイオシードテクノロジーズ株式会社
YAMAGATA DESIGN AGRI株式会社   (五十音順 2023年12月1日現在)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1652/

2023年12月12日号(通算23-29号)

アサヒバイオサイクル(株)の皆さんが来訪

 農業分野の方には飼料やビール酵母由来の肥料原料で馴染み深いアサヒバイオサイクル株式会社の千林 紀子(ちばやし のりこ)社長とアグリ事業部長の上籔 寛士(かみやぶ ひろし)さんが11月末に来札。私たちの職場にも立ち寄って下さいました。

 農業分野のことだけに留まらず、現代社会で求められる事業活動、時代の流れの変化などについてHAL財団の磯田理事長、田尻常務理事と意見交換を行いました。

 今回のご訪問をきっかけに、アサヒバイオサイクル(株)とHAL財団は情報交換、情報交流を進め、北海道の農業や多くの事業活動を広めて行ければと考えています。

 2024年1月に開催予定の「新しい農業のビジネスを考えるトークセッション」には、アサヒバイオサイクル(株)の協賛をいただき、またアグリ事業部長の上籔 寛士さんもスピーカーとして登壇していただけることになりました。

(HAL財団 上野貴之記)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1646/

2023年12月5日号(通算23-28号)

農業経営レポート

 

“Seek out innovators” 
~Part2:『水が無い水田』の取組みの拡大版~~
を掲載します。

                             

 筆者の梶山氏は元農水省職員。現在は、千葉県で一般社団法人フードロスゼロシステムズ代表理事、行政書士として活躍中。

前回(2023年8月22日号(通算23-17号))に続き「乾田稲作」について農業経営の視点からのレポートです。

 それでは、この先はレポートになります。

 なお、この文章は、筆者個人の見解であり当財団の公式見解ではありません。


““Seek out innovators”Ⅳ ~北海道での乾田直播取組の拡大!~

 レポート:梶山正信

Ⅰ はじめに

(1)昨年から北海道で先駆的に水無し乾田直播にリスクを取ってチャレンジしている共和町の合同会社ぴかいちファームの農業経営者の山本耕拓(やまもと たかひろ)さん(以下、山本さん)を取材した記事を詳しく掲載していることから、山本さんがどれだけイノベーターであるかについての記述はここでは割愛する。

(2)今回、山本さん以外でもチャレンジングなコメ生産者がこの北海道に居ることを聞き2023年10月12日に秩父別町に所在する(株)川合農場を訪問した。
取材を終えての自分の偽らぬ印象としては、北海道にはリスクを恐れずチャレンジする、そして新技術を否定する風土を打破しようと努力している本当のイノベーター農業経営者が、沢山居ることに改めて気付かされた取材であった。

Ⅱ (株)川合農場の乾田直播の取組について

1.(株)川合農場の概要

(1)(株)川合農場は、北海道でも有数の水田地域の一角に所在する秩父別町にある。この地で4代にわたって農業を続けている農業経営者の川合雅記(かわい まさき)さん(以下、川合さん)が今回の取材先だ。
現在、川合農場では水稲のみ合計約45haを作付けしている。ただし、先の取材先である共和町の山本さんとは違い、主力は加工用のモチ米で、一部に飼料用米を作付けという状況である。また、共和町の山本さんと同じ新技術を活用しての乾田直播での作付けは畜産農家と連携した稲サイレージ(稲WCS)の作付けに限られ、それも稲WCS作付け面積200aの内66aとごくわずかな面積である。

(2)川合さんのお話では「今年から稲WCSを含めて全てに菌根菌を使用することで、育苗の根の伸び方が依然とは全く違う」ということだった。菌根菌の活用で反当り10俵以上の収量が期待でき、直播も同程度の収量が確保できる見通しだという。この経験から、今後は労働力、費用を削減できる菌根菌利用での直播にシフトしていく意向とのことであった。

(3)川合さんから強い意志を感じたのは、現在の主力である加工用のモチ米の拡大ではなく、飼料米を含めた畜産農家と連携した菌根菌利用での水無し乾田直播での稲WCSの大幅な生産拡大の意向であった。
この取り組みは、今年から始めたばかりではあり極一部の66aという面積に過ぎない。しかし、今後は稲WCSを50ha、100haと増やしていき労働費を大幅に削減し経営効率を上げ、少人数で事業を行うことが当面の農業経営における目標ということであった。


<(株)川合農場のフル自動精米機倉庫の内部とそのコントロールパネル>
2.なぜ、新技術の乾田直播にチャレンジしたのか?

 (1)川合さんに新技術というべき、菌根菌利用の乾田直播に取り組んだきっかけを伺った。それは、やはり北海道内での先駆者である共和町の山本さんの取り組みを見たことによるものであった。しかし、川合さんと山本さんには大きな違いがある。山本さんは主食用のコメ生産であるが、川合さんは畜産農家と連携した耕畜連携での稲WCS用の栽培なのだ。その理由を伺う中で、私自身が元々農林水産省で畜産分野を専門に仕事をしてきたことから、耕種農家と畜産農家との連携上の課題の話になり、川合さんから「近くに畜産農家としっかり連携ができる農業経営者の知り合いがいる」との話があった。そのような確固たる信頼関係で連携できる畜産農家の存在や、お互いが意向や事情を理解できたことが大きいとのことだった。

(2)ここから若干、耕畜連携での専門的な話になるが、耕種農家が畜産農家と連携する上で一番肝となることを川合さんも力説されていたので、あえて丁寧に書くこととする。
昔は特に稲わらについては、耕種農家が丁寧に刈り取った稲わらを棚に掛けて天日乾燥させて、泥が付いていない綺麗な稲わらを畜産農家に提供していた。それが、自脱型コンバインの普及で稲わらを回収しなくなり、日本での稲わらでの耕畜連携が大きく衰退していったところである。

(3)農林水産省では、これを打開するために耕種農家の稲わらの回収事業等も実施したが、昔と違って耕種農家と畜産農家の所在地の分離が進み、耕種農家と畜産農家がお互いにその意向や事情が理解できない環境になってしまった。泥が付いたような品質が適さない稲わらを耕種農家が畜産農家に販売してしまうと、畜産農家から見ると、耕種農家を信頼できない、そのようなものは買取できないということになってしまうのだ。実際、道東の畜産地帯と耕種地帯の距離の遠隔以上に、両者の意識の差、隔たりが大きくなってしまったと川合さんは力説していた。

(4)しっかり連携が出来る畜産経営者は、川合さんの稲WCSならいくらでも道東から取りに来て買うよという信頼関係をも築くことができたのだ。その結果が、稲WCSの50ha、100haの拡大という先に記した経営目標につながるのだ。
その目標に向け、稲WCS用の中古のロールベーラー機は既に購入しており、今後の付近の離農地を利用することで、畜産農家から求められる稲WCS生産へ経営をシフトとする意向であるという。さらに、現在の加工用のモチ米の引き合いも相当あるので、今後はモチ米の価格UPを進める意向であるという。誠に、強気の販売戦略として秀逸である。
なお、現在二軒の畜産農家との取引があるが、従来は子牛用の稲WCSが主であったが、最近はその利用量が増えています。それに加え、敷料用途であるもみ殻も年間250トンほどの取引されるようになった。

 

3.モチ米、飼料米、WCSでの乾田直播の相性は?

(1)私が最初に驚いたのは、都府県の代表的なコシヒカリであれば1反6~8俵が標準的な収穫量だが、北海道では1反10俵取れて当たり前ということだった。乾田直播で本当に10俵が取れるのか?と質問したところ、育苗より不安定ではあるが遜色なく経営出来る、WCSの成長も水無しに関わらず思ったより順調だったとのことだ。つまり、菌根菌と菌根菌に適した管理をすると、育苗と比較しても全く問題ない相性であると推測される。
そのためには山本さんのようなしっかりとした栽培技術があることが肝心だが、川合さんはデジタルクリエイターを自称されていて、6年前からドローン請負散布業開始、それ以前はラジコンヘリコプターで請負散布業をやっていたという経歴の持ち主だ。しかも、地元の町内でのスマート農業組織の運営にも携わっていることから、実際の自分の農業経営においてもRTKドローンや自動操縦トラクターを導入して、労働費の削減に積極的に取組む先駆的な農業経営者であることが、この取材で分かった。

(2)少々話は横道に逸れるが、自分のイメージで北海道の農業経営者は既に都府県でいう農家という意識はなく、果敢に前例踏襲主義を打ち破りチャレンジする方ばかりだと共和町の山本さんを取材して感じていた。
だが多くの水田地帯の農業経営者は、やはり都府県と同じように地域の和が第一で、ドローンや自動操舵トラクターなどの新技術をなかなか認めない風土だという。水田の水利権の関係から人の和を重んじ、変化を嫌う土地柄なのであった。

4.将来の自分の農業経営の可能性をどのように考えているのか?

(1)現在、川合さんの(株)川合農場の売上高はおよそ7千万円ということだが、当然、稲WCSの作付け拡大により、机上の概算でも50haであれば最低でも5千万円は上昇するはずだ。それにつれてモチ米の価格も相乗効果で上昇が期待され、現状の2倍程度の売上高になると想定される。

(2)これが、100haになれば言わずもがなの売上高になることになるはずなので、それを本当に一人でやれるのですか?と質問した。その回答は「水無し乾田直播のWCSで50haを一人で回せる体系を構築したい」とのことだった。もしそれで100haをやることが一人で無理なら、そこに有望な一人を加えることで、50haの2倍の100haが当たり前に回せる体制としたいという。
   前述したように、この秩父別町が水田地帯ということで、水田の水利権の関係から人の和を重んじ、変化を嫌う土地柄ではあるものの、我々の世代から下と共にが、それを変えるタイミングを考えているという。農業経営者というより戦略家としての一面を強く垣間見た気がした。

5.今の自分の農業経営において、一番大切にしているポリシー&経営理念は?

(1)取材の終わりに川合さんの今の農業経営のポリシーを伺ったところ、即座に「一人でやれる経営が自分のポリシー」とあった。その理由を詳しくお聞きすると、川合さんの経営理論からすれば、100haを二人で作業を分担しながら回すのは本当の効率化ではない。50haをマニュアル等で完全に一人で難なく回して、それを二人にすれば100haを難なく回せる体系が構築できれば、非常時にはどちらかだけでも農業経営の全体が回るはずという。その考え方を聞き、本当に従来の農業経営者の思考ではなく、ドローンや自動操舵トラクターを駆使するデジタルクリエイター的な思考だと強く感じた。

(2)また、将来は稲作でもメタンフリーが当たり前の社会が来るので、菌根菌などの利用で乾田直播は労働費の削減とともに、メタンフリーというキーワードが重要な意味を持つ時代が来るとお話された。私も新技術による日本のコメの輸出の拡大で、長期的にはそのことに異論はないが、短期的には川合さんのようなデジタルクリエイター的な感覚、またプロダクトアウトではなくマーケットインでの消費者のニーズを的確に捉えた、時系列の各段階でのメタンフリー戦略が、農業経営者サイドの視点として必要だと、お互いに納得して熱のこもった議論を行った。

(3)最後に余談にはなるが、これかからの農業経営者に重要なことで、現状、この秩父別町の水田でも半分以上が農業用ヘリコプターからドローンに置き換わっており、将来は全てがRTK測量でのドローンになると見込まれる。
また、全国での5G、6G基地局の設置で、自動操舵トラクター等が当たり前になる時代が来るのはそう遠いことではない。川合さんが強く言われたのは日本のドローンは他国製ドローンと比べて5年は遅れていて、その差は開き続けている。現実的に映像の処理技術からしても全く駄目だし、今の日本のドローンは他国製と比べると価格も高く、2023年夏に大幅値下げされたものの農業経営者として使える代物ではないと発言があった。農林水産省で国産ドローンを推進してきた立場から非常に衝撃であった。

Ⅲ あとがき

  • 福岡県出身である私の農家のイメージからすると、北海道の多くの農家はもはや農家ではなく農業経営者であり、地域での古いしがらみにとらわれずリスクを取ってでも新技術にチャレンジする山本さんのような農業経営者ばかりだと考えていた。しかし、現実は北海道でも水田地帯の農業経営者は、地域での前例踏襲の考え方にぶつかり、なかなか自分の言いたいことが言えない、自分のやりたい経営への変換が図れない、都府県で代々続く農家と同じ状況であることが、強く印象に残った。
  • 今後は川合さんのようなデジタルクリエイター的な思考、そして山本さんのようなリスクを取ってでも新技術にチャレンジする先駆的な農業経営者が、この北海道だけでなく日本全体で増えてくるものと、私は確信している。それでも、今現場でそのことに日々苦労している川合さんのようなチャレンジャーの農業経営者の方々に、自分がどのようにお手伝いが出来るのかを問う必要があると強く感じた取材であった。
  • 今、私は早稲田大学招聘研究員として稲作のメタンフリーを含めたカーボンニュートラルについて学んでいるが、つい最近、専修大学法科大学院で新たに始まった「土地国家帰属制度」の科目も受講し始めたことから、今後、更に増えるであろう耕作放棄地をどのようにしたら川合さんのような先駆的な耕種農家に活用してもらい、畜産農家と連携した稲WCSなどの生産拡大に繋げられるかについても考えたいと思う。それが、農林水産省で長年お世話になった畜産関係者の一人として、北海道の畜産農家へのせめてもの恩返しになるのではないかと考えているところである。

梶山正信
一般社団法人フードロスゼロシステムズ代表理事(行政書士)

筆者プロフィール
 1961年生まれ 
 2021年まで農林水産省に勤め、現在は一般社団法人フードロスゼロシステムズ代表理事、行政書士として活躍中
 2023年からは、早稲田大学招聘研究員として、カーボンニュートラル、地域活性化等を学んでいる。

━以上━

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2023年11月28日号 (通算23-27号)

書籍紹介 「めざせ!ムショラン 三ツ星」
刑務所栄養士、今日も
受刑者とクサくない
メシ作ります

  話題の書籍のご紹介。
 「めざせ!ムショラン 三ツ星」黒栁 桂子著、朝日新聞出版発行。

 

 私は法務省には何人かの知り合いがいるが、法務技官(法務省での技術職員)に管理栄養士がいることさえ知らなかった。そして、刑務所での食事を作っているのが、誰なのかもこの本を読むまで知らなかったのだ。

 仕事柄、食事の材料となる野菜などの値段など、いろんな情報が入ってくる。出来栄え、出荷額、これからの流行りや栽培方法なども。

 そして、巷にあふれる食に関する広告。これを食べると健康になる、という広告もある。どんな食事が大事か、どんな食品が危ないか、多くは危機感を煽るようなものが多く、そういうのを目にすると辟易としてしまう。

 そのような広告に出あう度に「選ぶことができるのは、それだけ時間的な余裕や金銭的余裕、そしてそもそも選ぶことのできる場所に住んでいるんだ」と見ていた。

 

 この本の存在を知り早速購入してみた。

 人材募集があり、それに応募して採用された筆者(管理栄養士)。刑務所での実務がどのようなものかを知らぬままに応募したという。

 それまで学校給食や病院、福祉施設での給食経験はあるというが。。。

 刑務所では、受刑者が給食(食事)を作るのだ。しかも、全員がほぼ未経験。

 

 それを指導し、さらに栄養、予算から献立を作るのが法務技官(管理栄養士)の仕事だ。

 書籍案内には、このような言葉が記してあった。

「刑務所では制限が多いながらも「ワクワクする給食」をめざし、受刑者たちの「ウマかったっス」を聞くため、彼らとともに日々研究を重ねている」と。

 現代は、貧困で日々の食べ物に困る人もいる一方、体に良いという謳い文句を掲げた多くの食品やサプリメント、果ては栽培方法までもが出回っている。

 ところが、選択肢もほぼなく(まったく無いわけではなく、その選択をするのが法務技官の仕事である)、多くの制限のなか日々の食事を作り、食べ、そして更生に結び付ける法務省の仕事。

 

 私たちに必要な食事をもう一度見つめ直さなきゃなぁ、と思う1冊であった。

 

(HAL財団 上野貴之)

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