HAL財団

「家業」から「地域企業」へ

WEB版HALだより「テキスト版」

2024年12月19日号 (通算24-39号)

年明け開催 決定!HALクロストークセッション第4弾
これからの農業のビジネスを考えるトークセッション

 2023年、2024年の冬1月、そして2024年8月に開催したトークセッション。
今期は、初めての夏のトークセッションを開催しましたが、年明け2025年1月に第4弾を開催します。 キーワードは引き続き「できる・勝てる・儲かる・続く」だ!です。
 農業界は肥料、飼料のかつてないほどの急激な高騰に見舞われ、さらに人件費の上昇、海外産原材料・飼料の輸入不安定という状況にあります。そのうえ、近年は大雨、干ばつ、高温と異常気象の連続。しかし、新たな技術や利用、販路の拡大や企業との連携などダイナミックな動きが出てきています。最新の動向や今後の見通しを知るために、第4弾となる「トークセッション」を今年も1月に開催します。

【開催概要】
日時:2025年1月20日(月)12時受付 13時開演
13:00~18:00 スピーカーによるテーマトーク
19:00~    トークセッション2部        
       
参加費:無料  (懇親会は会費制:5,000円(税込み)を予定)
会場:かでる2.7 4階 大会議室 
住所:札幌市中央区北2条西7丁目 道民活動センタービル 4階

【申し込み方法】
事前メールで受け付け(先着順)
受付期間: 2024年12月19日(木)正午 ~  定員に達し次第終了
申し込み先:HAL財団 専用受付メール umai@hal.or.jp
★お名前、メールアドレス、所属(屋号、会社、団体)、ご住所、電話番号、懇親会の参加・不参加を記載の上、お申込みください。先着順です。
参加者には別途メールをお送りします。
定員 :農業従事者:70人(MAX)
    関連企業・団体:20人(MAX)
    スピーカー、運営:30人
 
スピーカー(話題提供者) (企業、団体名の五十音順)2024年12月10日現在の予定

  • アサヒバイオサイクル(株) サステナビリティ事業本部
    アグリ事業部長  上籔 寛士氏
    アグリ事業部担当部長  北川 隆徳氏
  • 合同会社 共和町ぴかいちファーム 代表社員  山本 耕拓氏
  • コルテバ・アグリサイエンス日本(株) エリアマーケティングマネージャー  大橋 祐輝氏
  • シンジェンタジャパン株式会社
    執行役員 事業開発部長  柳田 優一氏
    事業開発部  早島 悠氏
  • 株式会社NEWGREEN 代表取締役  中條 大希氏
  • バイオシードテクノロジーズ株式会社 代表取締役社長  広瀬 陽一郎氏
  • 株式会社バイオマスレジンホールディングス 取締役副社長  ナカヤチ 美昭氏
  • BASFジャパン株式会社 マーケティング部シニアマネージャー  関根 真樹氏
  • 福田農場(網走市) 農園主  福田 稔氏
  • 株式会社ペントフォーク 代表取締役社長  伊藤 武範氏
  • 株式会社ヤマザキライス 代表取締役社長  山﨑 能央氏

            

実行委員会メンバー

  • 安藤 智孝さん(清水町)
  • 伊藤 勲さん(江別市)
  • 伊藤 儀さん (弟子屈町)
  • 伊藤 敏彦さん(別海町)
  • 今井 貴祐さん(小清水町)
  • 川合 雅記さん(秩父別町)
  • 北川 和也さん(中富良野町)
  • 木村 加奈子さん(別海町)
  • 神馬 悟さん (南幌町)
  • 福田 稔さん(網走市)
  • 山本 耕拓さん(共和町)
  • 島 哲哉さん(富山県高岡市)

進め方

  1. スピーカーからそれぞれの立場で北海道農業とどのような関わり、新たな関わりを持とうとしているのかをお話してもらいます。
  2. 会場参加者から随時質問を受け付け、トークセッションをします。

 

主催 一般財団法人 HAL財団 / クロストークセッション実行委員会
協力:アサヒバイオサイクル株式会社 

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2289/

2024年12月17日号 (通算24-38号)

新麦フェスタ2024が札幌で開催

「新米」の季節になると消費者も待ち焦がれます。おコメは団体や行政機関、そして小売店も含め「新米」のキャンペーンやフェアを行いますが、今までなかなかなかったのが「麦」。

NPO法人の新麦コレクション(さいたま市)が主催する「麦フェス2024」が11月24日(日)に札幌で開催されました。

このフェスは2017年から東京と福岡で開催されていましたが、北海道で開催されるのは初めてとのこと。午前中は『道産小麦トーク』と銘打ち「道産小麦のここがすごい!」「ライ麦パンで再生!北海道の農と健康」とトークイベントが行われました。そして、午前と午後の2部制で道内外の人気パン店の直売も。

そのほとんどが、普段札幌では購入できないものとあり開始前から行列が出来ていました。北海道は、国内有数の小麦産地。そして国内では数少ないパン用小麦も最近はその作付けも、品種も増えてきました。
次年度以降も開催が期待されますが、きっと大賑わいとなりそうな予感です。

企画広報室 上野記

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2284/

2024年12月10日号 (通算24-37号)

有志で研鑽会(ミニトークセッション)を開催!

2024年1月、そして8月に開催した「HALクロストークセッション」。多くの方に参加していただき、そしてその後、参加者同士の交流が生まれています。

今回は、その中でできたグループが自主研鑽会を行うというので、HAL財団からも参加しました。
会場は、上富良野町の「土の館」(スガノ農機株式会社)の研修室。最初に「土の館」館長の田村さんから近年の気象の変化がもたらす影響とその対策についてのお話がありました。事前に参加者の所在地をお教えしていたので、その地域ごとの詳細データを用い、説明していただきました。

その後、道内各地から集まった参加者がそれぞれの栽培、生産について報告。また、参加者同士で質疑応答がありました。

今回は、有志での研鑽会でしたが、来年度以降はHAL財団として開催したいと考えています。

企画広報室 上野記

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2275/

2024年12月3日号 (通算24-36号)

導かれるように陸別町の薬用植物の森へ

*今回の「WEB版HALだより」は、野菜ソムリエとして大活躍の吉川雅子さんにお願いしました。なお、この文章は、筆者及び筆者の所属する団体の見解であり当財団の公式見解ではありません。

レポート:吉川 雅子

私が、日向優(ひなたゆう)さんを知ったのは、陸別町で薬用植物を育てている人がいるという2020年8月のSNSでの情報。まだ、「種を育てる研究所/タネラボ」ができる前です。
気になるとすぐにお会いしたくなるタチでして、アポを取ってすぐに陸別に伺いました。やはり、今後の北海道の6次産業化に新しい視点をもたらしてくれる方でした。
今年7月、改めてお伺いしてお話を聞かせていただきました。

葉を乾燥させてお茶にするキバナオウギ

陸別に夫婦で移住

大阪にある製薬会社で新薬の研究開発という仕事をした日向夫婦。なぜ、日本一寒い町・陸別町に移住してきたのでしょう。

道の駅前。取材時は7月だったので32℃を指していますが…

研究者として充実した日々を送っていましたが、30歳を過ぎた頃から、「研究以外にも、自分たちの経験が役に立つ仕事や活動があるのではないか」と二人で漠然と考えていたそう。札幌出身の日向さんと広島県尾道市出身の奥様の美紀枝(みきえ)さん。ともに北海道大学薬学部の同級生で、移住先候補に“北海道”が入るのは自然なことでした。

2014年秋に開かれた「北海道移住フェア」に参加し、翌年に陸別町の1週間お試し移住を体験。たまたまですが、滞在中に、陸別町が新産業のために薬用植物栽培を新たに始めたことや、それを支援する地域おこし協力隊を募集する予定であることを知ります。
なんと! すごい引き寄せ!
二人の専門分野ではないものの、薬用植物や漢方は薬学部時代に授業で習っており、薬に関わる仕事でもあるので、町に貢献できるのでは? と思い、他地域も検討しましたが、最終的には陸別町を選択。製薬会社を退職後、2017年秋に移住したというわけです。

地域おこし協力隊として町に貢献

2014年に始まった町の薬用植物栽培事業。町の気候や土壌でうまく育つかを確かめるために、カンゾウ(甘草)やキバナオウギ(オウギ(黄耆))、コウライニンジン(高麗人参)など10種類以上の試験栽培に取り組んでいました。これらの薬用植物は医薬品になるものの、ある意味農作物であることに変わりはありません。しかし、日向さんは農業の経験がなかったため、地域おこし協力隊となってから、栽培管理を行ったり、研究機関に出向いたりして知識を身につけていきました。
「苦労はありましたが、例えばカンゾウは漢方薬に使用されるだけでなく、食品の甘味料としても使われます。このように漢方薬以外の用途もあることを知り、学んでいきました」。
ちなみに、美紀枝さんは同じ地域おこし協力隊で「商工観光分野」を担当し、地域活性化に取り組む活動をしていました。
町には「銀河の森天文台」や「りくべつ鉄道」、「道の駅」などの観光施設があり、それに関わる町内商工業者も多くいます。
そこで築いた人脈や町民の方々との信頼関係があったからこそ、現在のタネラボの活躍につながっているんですね。

夏休み中のこの日も「ふるさと銀河線りくべつ鉄道」を見に、多くの観光客が訪れていました

「タネラボ」誕生へ

3年間の地域おこし協力隊の任務を終え、2021年2月22日、「種を育てる研究所・タネラボ」を立ち上げました。

会社の入口に取り付けられた看板

「名前にはふたつの意味を込めています。ひとつは、植物の“種”からスタートし、栽培した収穫物を使ってさまざまな商品を創り出すということ。もうひとつは、陸別町では誰も薬用植物で事業化をしていなかったので、ゼロから新しい産業を創り出すこと。つまり種をも生み出し、そしてその種を育てていくことをイメージしました」と日向さん。

タネラボのビジョンは、「地域から発信する商品やサービスによって、人々が心身ともに健康で美しくなる」。薬学の知識で人々の健康と美容に寄与したいのだそうです。
現在、国産の薬用植物のほとんどは漢方薬原料となり、それ以外の用途に使用されることはあまりありません。薬用植物には、機能性食品や化粧品等の商品に使用されるべきすばらしい薬効があるのですが、まだまだ活かされていないのが現状です。その理由は、“薬用植物を育てる人”と、それを“活用できる人”が両方とも少なすぎることだと日向さんは考えます。薬用植物の栽培には一般の植物とは異なった知識やコツを身につけなければなりません。また、活用できる人は商品を作る際に科学や薬事などの薬学的な知識が不可欠。このように両者とも、薬用植物の特性に合わせた専門的な知識が必要なのです。
これらの知識を持った人たちがうまくマッチングし、お互いに協力して「6次産業化」を目指せば、新しい分野の商品が生み出される可能性が高いのですが、現状は難しい。
そこで、「タネラボ」では、全国的に極めて珍しく、自社で漢方薬向け以外の用途で薬用植物の栽培を行い、薬用植物の6次産業化を行うことにしました。

今後の方向性

現在、畑では日本の薬用植物だけでなく、西洋ハーブ類も加えて約20種類の植物を栽培しています。そのことにより、多様な商品を創ることができ、多様なニーズに応えることができると考えたからです。これまでにほとんど例がない、日本の薬草と西洋ハーブを組み合わせた商品の開発も視野に入れています。

トウキ畑での日向さん。トウキの葉の収穫は春と秋の2回。7月はまだ小さいですが、草取りなどの作業があります
カモミールの収穫をしている美紀枝さん

栽培している植物

漢方薬原料にも使用する薬用植物(キバナオウギ、トウキ(当帰)、ベニバナ(紅花)、ムラサキ(シコン(紫根))、キキョウ(桔梗)など)
西洋ハーブ類(エキナセア、セントジョーンズワート、カモミール、レモンバーム、カレンデュラ、フェンネル、マロウ、ペパーミント、ヤロウ、タイム、マジョラムなど)
上記の植物以外にも、陸別町に豊富に存在する森林資源(トドマツ、アカエゾマツ、カラマツ)も植物原料として利用しています。

タネラボの商品たち

地域おこし協力隊の時から、キバナオウギの葉を使った「オウギ葉茶」やコウライニンジンを使った「高麗人参飴」を商品化。町の給食センターと連携して給食メニュー化も行ってきました。

会社で展示している商品ラインナップ

薬用植物を使用したジンやハーブティー、ハーブコーディアル(シロップ)、エッセンシャルオイルを道の駅や自社のサイトで販売中です。また、コスメなども準備中です。ほかにも、町内外の方々とのコラボ商品も企画中です。

今一番力を注いでいるトウキ

セリ科多年草のトウキ(学名Angelica acutiloba Kitagawa)。日本固有の薬用植物です。根は生薬「当帰(とうき)」として漢方薬の原料に用います。「葉」はセロリのような個性的な香りが特徴で、ヨーロッパではその学名(Angelica)から「天使のハーブ」と呼ばれて、肉料理やスープ、スイーツなどにも利用されています。
トウキは生育が遅く、葉を収穫できるまで2年を要します。手間もかかることから、栽培している農業者が極めて少ないのが現状。そのため、トウキ葉が一般に流通することはありません。近年では、ビタミンやミネラル等の栄養成分が豊富に含まれていることが明らかとなり、その特性を利用した食品や化粧品の開発が徐々に増えてきました。
もちろん、「タネラボ」の畑でも栽培しています。

9月末の収穫可能なトウキ
北見市の「津村製麺所」の直営店「TumuLab( ツムラボ)」では、6月1日から約2カ月間、トウキの葉の天ぷらを使った「やくぜんひやむぎ」が提供されました。また、8月31日には「トウキ葉入りキーマカレー」が学校給食で提供されました

これからも、新しい視点で、人々が心身ともに健やかに過ごせる商品やサービスを発信し続けてください。


プロフィール

吉川雅子(きっかわ まさこ)
マーケティングプランナー
日本野菜ソムリエ協会認定の野菜ソムリエ上級プロや青果物ブランディングマイスター、フードツーリズムマイスターなどの資格を持つ。

札幌市中央区で「アトリエまーくる」主宰し、料理教室や食のワークショップを開催し、原田知世・大泉洋主演の、2012年1月に公開された映画『しあわせのパン』では、フードスタイリストとして映画作りに参加し、北海道の農産物のPRを務める。

著書

『北海道チーズ工房めぐり』(北海道新聞出版センター)
『野菜ソムリエがおすすめする野菜のおいしいお店』(北海道新聞出版センター)
『野菜博士のおくりもの』(レシピと料理担当/中西出版)
『こんな近くに!札幌農業』(札幌農業と歩む会メンバーと共著/共同文化社)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2267/

2024年11月26日号 (通算24-35号)

視察対応のサポート

 後志管内共和町の共和町ぴかいちファームの視察をしたい。そんな電話が入りました。視察を希望したのは、平取町役場に事務局がある平取町農業協議会でした。

 先方の希望日を伺い、共和町ぴかいちファームの山本さんとも時間の調整。そして、10月16日(水)の午後に視察を受け入れることが決まりました。
 山本さんは、いま話題になっている乾田直播(かんでんちょくは(ちょくはん))を実践している方です。

 全国や道内各地の動向については、HAL財団で把握している情報を資料にまとめ視察対応のサポートをいたしました。

 播種(は種)から防除など技術的・実践面の説明を山本さんが行い、HAL財団からは道内の状況を説明しました。
 実際に実ったお米を見て触ると、その出来栄えに驚いたみなさん。そして、通常であれば小麦畑に見られる雑草の類にも興味津々の様子。

 HAL財団では、このような業務も対応可能ですのでご相談ください。

企画広報室 上野記

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2252/

2024年11月19日号(通算24-34号)

白い花咲くそば畑から

 **今回の「WEB版HALだより」は、昨年大変好評だった、農業とは縁のなかった写真家・藤田一咲(いっさく)さんに、北海道農業の現場を見てもらい話を聞く企画の第2弾です。今回も3カ所の現場に足を運んでいただき、HAL財団・上野貴之が聞き手となる対談形式でお届けします。私は敬愛の気持ちから、今年も一咲さんと呼ばせていただきます。

(HAL財団 企画広報室 上野貴之)

そばの生産量日本一は?

●上野:一咲さんには昨年に引き続き、今回も北海道農業の一端を見てもらいます。そこからどんな風景、未来が見えてくるのか楽しみです。さて、今回の最初の取材地は新得(しんとく)町でそばを栽培する「はら農場」。
 一咲さんは東京の人だから、そばといえば信州、つまり長野市戸隠(旧戸隠村)のそば、いわゆる「戸隠そば」がすぐに頭に浮かぶでしょう? 
★一咲:「七つ長野の善光寺、八つ谷中の奥寺で、竹の柱に茅の屋根、手鍋下げてもわしゃいとやせぬ、信州信濃の新そばよりもわたしゃあなたのそばがいい」。
●上野:「あなた百までわしゃ九十九まで、ともにシラミのたかるまで」って? いや、それは男はつらいよの寅さんの啖呵売(たんかばい=ごく普通の品物を巧みな話術で売りさばく商法)のセリフですけど、信州信濃〜の部分は都々逸(どどいつ=江戸時代に生まれた、七・七・七・五の口語定型詩)です。
★一咲:「そばどころは信州」のイメージは江戸時代には確立されていたんですね。ぼくがそばは信州のものと思っていても不思議ではないですね。

●上野:そばはどこで作られていると思いますか?
★一咲:日本三大そばというくらいですから戸隠そばの長野県、出雲そばの島根県、わんこそばの岩手県あたりになるでしょうか?
 今回、北海道のそば畑に取材に行くと聞いて、北海道でもそばを作っているんだと改めて思いました。改めて、というのは、写真界隈では真っ青な空の下で白い花が一面に咲く北海道のそば畑はとても有名ですから。でも、それは観光客誘致のためのものだと思っていました。

●上野:あのですねえ、日本一のそばの生産地は北海道なんです。
★一咲:え、えええ?! それは知りませんでした。北海道の麺といえばラーメンでしょう? 札幌の味噌ラーメン、函館の塩ラーメン、釧路と旭川の醤油ラーメンなどが有名ですよね。北海道のそばで有名なブランドとか、全国的に展開している名の知れた有名店とかあるのでしょうか?
●上野:そうかあ、北海道のそばは日本一の生産量でも、全国的にはあまり知られていないのが現実なのかも知れないなあ。生産量全国第1位の幌加内町の幌加内そばとか、生産量全国第2位の深川市の多度志そば。そして私たちがいま向かっている新得町のそばは、北海道産ソバの代名詞と言われてます。町内を通る国道38号は通称「そばロード」と呼ばれ、北海道のそば畑の写真はここで撮られたものがほとんどでしょう。

両脇を森に囲まれた「はら農場」のそば畑。畑一面にじゅうたんのように見事に満開のそばの花が咲き誇っていました。遠くに見えるのは、はら農場のロゴマークにもなっているオダッシュ山。
青空ではないので、そば畑に抱いているイメージとは異なるビジュアルですが、可愛い小さな白いそばの花々の上を見たことがないくらい多くのモンシロチョウやハチが飛び交っていました。

そば畑の匂いの秘密

●上野:新得町は東大雪の山々と日高山脈に抱かれた山麓地帯にあります。ここは冷涼な気候で昼・晩の寒暖の差が大きいので風味豊かな美味しいそばが育つのです。
★一咲:寒暖の差が大きいほど植物は強く育つからですね。
●上野:強く育つにはエネルギーを蓄える必要がある。それがそばの旨味、甘味に大きく影響するわけです。
★一咲:北海道の気候は元々そばの栽培に向いているんですね。最近の厳しい暑さは、今後の生産量に影響しそうですが。
●上野:一咲さんはそば畑を見たことがありますか? 
★一咲:こんなに近くで、しかも満開の時は初めてです。しかもモンシロチョウやハチがたくさん飛んでいて、なんだか天国のような光景ですね。でも、ちょっと臭いような気もします。
●上野:小さくて可愛らしいそばの花ですが、よく言われるのが肥料のような、動物のフンやお酒が発酵しているような独特な匂いがするでしょう? そばは受粉が難しい植物で、人間には臭いけど虫の好む匂いを発して、虫を呼び寄せているのです。本州のそば畑周辺では、この臭いで近隣の住民からクレームがあることもあるとか。
★一咲:それでここにはモンシロチョウやハチがたくさんいるんですね。でも気にならないくらいの匂いです。もっと匂いが強いくらいの方が虫も集まりそうですね。

そば畑は花の見た目の美しい印象とは少し異なる臭いが。しかし、それはそばが受粉を行いやすくし美味しい実をつけるために頑張っている姿から来るものでした。
そばの花。茎が細い割には花が大きく、わずかな風でもよく揺れるような気がしました。畑一面のそばの花が風で揺らいでいる風景は、写真に撮るのは難しいですが、見ていて気持ちのいいもの。たぶん、これも虫たちと一緒に欠かすことのできないそばの受粉システムに組み込まれているのかも知れません。

美味しいそばは土作りから

●上野:一咲さん、ここの匂いはそばの花だけではないのです。はら農場は有機栽培のそば畑ですが、鶏糞と馬糞を合わせた堆肥も独自に自分で作っているので、その匂いでもあるんです。
★一咲:そこまで手間と時間をかけてそばを栽培しているんですね。
●上野:ここで大切にしているのは土作りからなんです。堆肥の他にクローバーなどの草も使っています。いわゆる緑肥です。クローバーは植えているだけで緑肥効果があり、畑にすき込むと堆肥としても利用できます。
★一咲:昔のレンゲみたいな感じでしょうか。どちらも化学肥料とは違う良さがあって、一緒に使うことでさらなる効果が望めるんでしょうね。でも緑肥はもう一つ作物を育てるようで大変ですね。

●上野:北海道のそば栽培の多くは「キタワセソバ」です。新得町では他に「ぼたんそば」や「レラのカオリ」を栽培していますが、はら農場では主に「キタノマシュウ」というそばを栽培しています。そばと緑肥の種まきの時期のバランスなどが難しいこともいろいろありそうですが、独自のノウハウがあるのでしょう。よく見ると、そばと一緒に他の植物も一緒に育っていますね。
★一咲:自然に近い環境で育てると、気候以外にも競争力が働いて元気で丈夫に育ち、より美味しいそばになりそうです。はら農場のそばを食べるのが楽しみです!

元気よく育っているはら農場のそば。その高さは一般的なそばよりも低めのようです。倒れにくい特徴があるのかも。そばとそばの間には他の植物も。それは放置ではなく、自然な環境で美味しいそばにするための戦略なのか。ここのそばはのびのびと誇らしげに咲いているように見えるのは気のせいでしょうか。
緑肥というのを初めて知りました。よい土を作ることからはじめ、そばを自然の植物本来が持っている力が発揮できる環境で栽培する。こんな自然農法で育てられたそばは、野趣あふれる風味の美味しいそばになるにちがいない。

そば栽培は命がけ

●上野:一咲さん、驚かすわけではありませんが、どこからか何か生き物の気配がしませんか? 
★一咲:たしかに! これは野良猫の気配ではないですね! 
●上野:ここはうっそうとした森に挟まれたほ場(農地を指す言葉)ですから、熊が出てもおかしくない。森の中に入ると、木の幹に鋭い彫刻刀で掘られたような熊の爪とぎ痕があちらこちらに見られますよ。これを人間にされたら、たまったもんじゃない。最近は熊の出没情報が多いし、悲惨な事故もあるので気を付けないと。
★一咲:気楽に天国のように綺麗なそば畑なんて言ってる場合ではないですね。そばの栽培は熊に襲われる恐怖と背中合わせ、命がけのところがありますね。ただでさえ、大変なそばの栽培にそんな危険も加わるとは。

●上野:熊の問題は、ここだけではなく北海道全体に言えるのですが、消費者はそんなことは考えませんね。
★一咲:その分を価格に乗せないといけませんね。先ほどの、受粉の難しさを考えると、これだけ手間をかけて栽培してもどれだけの量が収穫までいけるのかも気になりますし。畑一面咲いてる見た目の花の量から、いつも豊作のように見ていましたが、思ったほどではないのかもしれないし、また想像できない苦労もあるんでしょうし。

うっそうとした森に挟まれたような形状の土地にあるはら農場。ちょっと隔離されているようですが、それもここでの品種にいい効果があるのかも。ただ、森の中では夜間や人の気配がない時には、熊が歩き回っているのでしょう。
夏の猛暑に加え、熊出没の恐怖の中でそばが栽培されていることは今まで想像できませんでした。
森の中の木々のあちらこちらに見られる熊の爪とぎ痕。この爪とぎ痕は最近のもののよう。ずいぶん高いところについているので、これから熊の大きさを想像すると恐怖を覚えます。
森の外ではそばの花が満開。うっすら雪が積もったように白い花を一面に咲かせています。こうやって熊が人間の活動を森の中からじっと見ていたりするのだろうか。

新そばの味

●上野:一咲さん、新得町の毎年恒例「しんとく新そば祭り」(9月29日開催)から今年の、はら農場の新そばをお届けしますよ! 
★一咲:新そばと言っても、今まではハッキリとその味を実感したことがないので、それはすごく楽しみです! 土作りからこだわって作られたそばですから、ぼくの期待は大いに高まります。
●上野:はら農場のそばは「原氣(げんき)蕎麦」というブランドですが、その味、活動と地域の貢献がともに評価され、一般社団法人日本蕎麦協会の全国そば優良表彰事業で最高賞に次ぐ「農林水産省農産局長賞」を2021年に受賞しているお墨付きの品質です。
★一咲:上野さんから送られてきたのは、原氣蕎麦「新そば なま(八割生そば+飛魚つゆ付)」「新そば 十割 乾麺」「十割 石臼」そして「そばの実」に「蕎麦の妖精」というスパイスミックス。
もちろん、すぐに生そばからいただきました。まず色が濃い。これは濃厚な味わいが期待できる。しかも、茹でなくていい。電子レンジでチンできる。そばの香りの高さ、歯ざわりの良さ、味は甘味と旨みが強くちょっと木の実のような、濃厚なそばの風味。この味は初体験! これまでに食べたことのない美味さ。蕎麦湯も濃厚。これは実際に食べてみないとこの味はわからない、伝えられないのが残念です。
●上野:食べてばかりいないで、北海道農業的にはどう見られましたか?
★一咲:北海道のそばの生産量は全国でも圧倒的な一位。でも(少なくともぼくの周りでは)知名度が低い印象です。
売るための努力はしなくても十分に売れているのでしょうが、ブランド力を高めることも大切だと思います。
 そばはたんぱく質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラルの五大栄養素が米や麦に比べてもいい、また必須アミノ酸もバランスよく含んでいると言いますから、もしかしたら主食になりうるのではないでしょうか。今年は米不足もありましたしね。そばで北海道農業もさらなる展開が望めそうですね。麺としてだけの食べ方以外も提案されると良さそうですね。また少し変わった味の品種を作るとか。
●上野:はら農場さんはそもそも「化学肥料や合成農薬に頼らずに、自然が持つ本来の力を活かして主食になりうるもの」を作りたいと思ってそば栽培を始めたようです。はら農場ではそばの実で造った発泡酒もあります。これからそばを使ったいろいろな商品の展開があるかもしれません。
★一咲:そばは外国でも生産されていて、食べ方もいろいろあるでしょう。伝統の食べ方の他の選択肢が増えると楽しいですね。

今年出来たてのはら農場の新そば商品の一部。生そばや乾麺の他、そばの実なども。生そばはレンジでチンしてまぜるだけのお手軽さで美味しくいただけます。
生そばを冷・温で。濃厚な甘味、旨味はこれまでのそば体験を一変させるほど。同梱されている飛魚(あご)のつゆがこれまた絶妙ないい味。赤いのは唐辛子、コリアンダーシードなどをミックスしたスパイスミックス「蕎麦の妖精」。
七味代わりに。少量で十分なアクセントになります。
黒い殻を取り除いた薄緑のそばの実。栄養が豊富で生活習慣病の予防・改善にも効果が望めるスーパーフードなのだとか。まず生で食べ、次に煎ってみましたが特に味はなく、煎ったものはお湯に入れて香りのいいそば茶に。次に白米と混ぜてそばの実ご飯に。これは香り豊かでモチモチした食感で美味しい!冷凍保存してもおいしさはそのまま。

藤田一咲(ふじた いっさく)
年齢非公開。ローマ字表記では「ISSAQUE FOUJITA」。
風景写真、人物写真、動物写真、コマーシャルフォトとオールマイティな写真家。
脱力写真家との肩書もあるが、力を抜いて写真を楽しもうという趣旨。
日本国内は当然、ロンドン、パリなどの世界の都市から、ボルネオの熱帯雨林、
アフリカの砂漠まで撮影に赴く行動派写真家。
公式サイト:https://issaque.com
写真:ISSAQUE FOUJITA

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2231/

2024年11月12日号 (通算24-33号)

動画版WEB版HALだよりを公開します! 夢の扉を開けませんか?十勝しんむら牧場

HAL財団では、農業賞受賞者のその後を取材しています。変わらず元気に農業に勤しむ姿に出会うと、非常に嬉しいものです。

HAL農業賞は、過去の実績に対して表彰を行うのではなく、将来に向けての期待をも込めて表彰を行っています。今回の取材は、2006年第2回HAL農業賞を受賞した「十勝しんむら牧場」を取材し、動画としてまとめました。


URL: https://www.youtube.com/watch?v=9ySzxhVLwyA

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2224/

2024年11月5日号 (通算24-32号)

ふらっと立ち寄り~共働学舎新得農場へ~

ふらっと新得の共働学舎に立ち寄りました。


すっかり秋の気配で、ミンタルもハロウィーン仕様でしょうか、色とりどりのカボチャが飾られていました。


第16回HAL農業賞優秀賞は新得町の共働学舎に贈呈しました。例年であれば札幌のホテルで、今までの受賞者のみなさんを招いての表彰式、祝賀会。しかし、その年はコロナ禍真っ最中ということもあり、式を行わないことも検討せざるを得ない状況でした。

如何にすべきか悩んだのですがHAL財団では「現地に赴く」という方法で“北海道農業を元気に” “明るい話題を”と考え、理事長の磯田憲一自らが共働学舎のある新得町に赴き、表彰状と副賞を贈呈することにしました。この提案を快く受け入れていただき、完成したばかりの施設、カリンパニにてHAL農業賞の贈呈式を開催することができました。

思い出深いカリンパニは変わらず素敵な佇まいでした。



散策していると、ヤギとブラウンスイス牛に出会いました。


カフェでは、農園で採れた野菜のピザと十勝マッシュのラクレット焼きをいただきます。どちらも、共働学舎の美味しいチーズを堪能することができました!また、ふらっと立ち寄りたいと思います。

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2214/

2024年10月29日号(通算24-31号)

~HALクロストークセッション Vol.3~ 収録動画を公開します!

2024年8月19日。全道各地から集まった農家、農業事業者、関連事業者の面々。2023年1月に第1回のトークセッションを開催して以降、大きな反響を呼んだ「菌根菌」や「ビール酵母資材」。

また、収穫農作物の利用や流通といったロジスティックの問題にまで踏み込む話が飛び交うHALクロストークセッション。



2024年6月に農林水産省で開催された『米輸出促進に向けた、「未来の米づくり」対話』のコアメンバーが集まるこのセッションは、注目度も非常に高いものがあります。特に、その後のマスコミ報道で『乾田直播・節水灌漑(マイコスDDSR)による「超低コスト・低メタン輸出米」の可能性』が数多く取り上げられたことから、さらに大きなうねりが起こりつつあります。


このトークセッションがある意味「きっかけ」になったとも言えます。
今回は、その第3回の模様を余すことなく動画で公開いたします。

なお、全編は文字通り全編で時間も5時間を超えています。話題に応じてチャプター分けをしていますので、見やすい方をお選びください。

動画URLは
 全編: https://youtu.be/mHpEScyYpes
 チャプター1: https://youtu.be/hlOYiDwUQPw
 チャプター2: https://youtu.be/FRlGc-NS700
 チャプター3: https://youtu.be/beDMkvY16GU
 チャプター4: https://youtu.be/1EODszGhnoM
 チャプター5: https://youtu.be/4zSmO6RGha8
 

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2203/

2024年10月22日号 (通算24-30号)

WEB版HALだより「動画編」制作中!

2005年から始まったHAL農業賞。今年で20回目になります。農業賞を贈呈した受賞者、受賞企業はその後も活躍を続けています。

 そんな中から、今回は第2回HAL農業賞優秀賞を受賞した上士幌町の有限会社十勝しんむら牧場と第9回HAL農業賞優秀賞を受賞した本別町の前田農産食品 株式会社の「その後」を取材しています。



 第2回のHAL農業賞は2006年。そして第9回は2013年ですから、両社ともに受賞から10年以上も経過しています。その間、それぞれの会社がどのような成長を辿ったのか、新たな夢や目標はどんなものがあるのか。それを映像でまとめています。

十勝しんむら牧場の現在の姿を追いかけた動画は、間もなく公開。その予告編はここからご覧いただけます。
URL: https://www.youtube.com/watch?v=odL_gDPbs3k

そして、前田さんの現在の様子は夏の小麦収穫の刈り取り模様やポップコーンの収穫を行っている秋まで収録を行っています。



また、今回は特別編として新村さんと前田さんの対談も!  


お二人の対談前に、新村さんが前田さんのほ場を訪問。そして、前田さんが新村さんの牧場を訪問し、近況を情報交換。

その後、十勝しんむら牧場のクリームテラスで対談を行いました。対談の進行役はHAL農業賞アンバサダーでフリーアナウンサーの渡辺陽子。




十勝はもちろん、北海道を代表する先駆的農業者・経営者であるお二人のお話は、和気あいあいでありつつ、進行役が何度もひっくり返るほどの「本音トーク」が飛び出ました。
どんな対談になっているのか、気になりますね。
現在、鋭意編集中です。公開までもう少しお待ちください。

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