HAL財団

「家業」から「地域企業」へ

WEB版HALだより「テキスト版」

2025年3月4日号 (通算24-49号)

WEB版HALだより「動画編」を公開!

 2006年第2回HAL農業賞を受賞した「十勝しんむら牧場」の代表取締役である新村浩隆さんと、2013年第9回HAL農業賞を受賞した「前田農産食品」の代表取締役である前田茂雄さんとの対談を先日公開しました。

独創的な経営スタイルで注目を集めるお2人に、北海道農業の課題、そして未来を語っていただき、大いに盛り上がりました。
その対談の公開に先んじて、しんむら牧場の動画も公開しています。農業賞受賞後、会社がどのような成長を辿ったのか、新たな夢や目標はどんなものがあるのか。現在のしんむら牧場の姿を追いかけ、それを映像でまとめました。そして、今回の公開は前田農産食品株式会社です!



この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2401/

2025年2月25日号 (通算24-48号)

“農家のかあさん”は誉め言葉!

*今回の「WEB版HALだより」は、野菜ソムリエとして大活躍の吉川雅子さんにお願いしました。なお、この文章は、筆者及び筆者の所属する団体の見解であり当財団の公式見解ではありません。

レポート:吉川 雅子

「森田農場」の森田里絵さんと初めて会ったのがいつなのか、残念ながらはっきり覚えていません。ただ、食に関心のある人たちの勉強会で知り合ったのは確か。その後しばらくして、ご主人の実家の清水町で農業をするという話を聞き、とてもビックリしました。
いつも十勝を訪れる際には立ち寄らせていただいていますが、“農家のかあさん”が板についた里絵さんをご紹介します。

小豆の花が咲く畑での里絵さん
畑違いの環境へ

 私の中では、十勝といえば、真っ先に清水町の「森田農場」を思い浮かべます。十勝には知り合いの生産者さんも多く、清水町を通って周遊するため、時間が許せばお邪魔させていただいています。
今回7月に伺った時は、小麦の収穫がほぼ終わったところ。コンバインで刈り取った小麦を、倉庫の大きな乾燥機に入れる真っ最中でした。

乾燥機の前でトラックの誘導をしていたのが里絵さん

会うたびに“農家のかあさん”の貫禄がついてきている里絵さんは、長崎生まれ、横浜育ち。札幌でお会いしていた頃はスーツやワンピース姿が多く、20年ほど前に、「いよいよ清水町に行って、農家をすることにしたのよ」と口にした時は本当に驚きました。
移住した年の夏に、私はすぐに清水町に遊びに行きました。町を案内しながら、清水町の魅力をいろいろ話してくれる姿が、とても楽しそうだと思ったのを覚えています。
ただ、ご両親と自分たちが考えている農業に少し違いがあることや、それでも「信頼を得るまでは今のやり方をしないといけない」ということも話していたのが印象的でした。

森田農場の歴史

森田農場は、明治時代中期に森田小三郎氏が岐阜県から入植。今から120年ほど前のことです。十勝平野の気候に合った農作物である小豆や金時豆などの豆類、ジャガイモ、小麦、ビートを作付けしてきました。3代目の慎治氏の時に畑作に加えて酪農を始めましたが、のちに、乳価が低迷したため畑作に一本化。2003年に、慎治氏が農業を引退することになったため、4代目の哲也氏が札幌から故郷に戻ってUターン就農。
哲也氏が慎治氏から相続した畑は約30haでしたが、近隣の農家が離農して手放した畑を受け継ぎ、畑の規模は借地も含めて約72ha(東京ドーム15個分)まで拡大しました。豊かな黒土を活かした農産物の生産に加え、直販体制を築き、加工品を手がけることで経営規模が拡大したため、2011年3月、哲也氏が「(株)A-Netファーム十勝」を設立して代表取締役に、里絵さんは専務取締役に就任しました。

麦稈ロールを集めている哲也氏
森田夫婦が目指した農業

森田農場の先祖たちは、十勝平野で盛んに行われている酪農から生じる牛糞や、砂糖の原料となる作物「ビート(てん菜)」の葉を堆肥としてすき込んだりして、作物が育つ土の環境を整えてきました。
現在、森田農場が力を注いでいる小豆は、同じ場所に何年も植え続けると落葉病などの連作障害が起きやすいため、小豆を一度植えた畑は、3年の間隔を空けてから再び植える「4年輪作」を守ることで病気を防いできました。また、有機肥料の施用などを行い、なるべく環境に負荷の掛からないような栽培に取り組み、なおかつ風味や味わいのある農産物の栽培を行っています。

森田農場から取り寄せた黒豆と小豆

2011年の法人化では、「ここまで100年、ここから100年」をモットーに掲げ、永続できる農業として、“土作り、安全性、美味しさのバランス”が取れた農業を目指しています。
2013年にはJ-GAP(生産工程管理)の認証を受けるなど、経営の「見える化」を進め、さらに、2015年には小豆(AZUKI)で世界初のグローバルGAPの認証を取得しています。

特に思い入れのある小豆

 農地72haのうち8~10haを占める小豆。日勝峠に続くゆるい傾斜地の畑は標高183mと意外に高い。これより標高が高いと小豆栽培は難しくなります。

小豆は黄色い小さな可憐な花をつけます

農産物のほとんどは“昼夜の寒暖差が大きい”環境の方が美味しくできます。
里絵さんはその美味しさに魅せられ、2005年にはネットショップ「小豆らいふ」を開設。全国のお客様に小豆のほか、丹精こめて育てた農産物を届けています。

月日と手間暇をかけて食卓に届いた小豆には煮方の説明も同封されています

里絵さんはアイデアウーマン。以前は、自社の小豆と市販の最中の皮のセット販売をしたり、小豆を使った料理コンテストをSNSで募集したり、YouTubeで畑の様子や小豆の料理法などを配信しています。“小豆を食べる”だけではなく、”小豆を煮る。そして食べる”という、手間をかけたり、ゆとりを持つという提案も行っているのだと私は感じています。
森田農場の小豆は「きたろまん」という品種で、粒のひとつひとつが大きく、小豆の味がしっかりと感じられます。中でも大粒のものを手選別して「プレミア小豆」として限定販売もしています。
今では、こだわりの和菓子店や洋菓子店、ベーカリー、セレクトショップにも卸しています。

すぐ食べられる小豆の商品化

2013年に6次産業化認定事業者となって、最初に商品化したのが「ホクホクあずき」です。小豆本来の味を損なわずに手軽に食べられる商品を模索していたところ、大豆のドライパックがヒントになりました。常温商品であり、賞味期限が長いため、販売店も取り扱いやすい。ほかにも、小豆茶や森田あんこ、黒豆茶、黒豆プロテインなど、商品ラインナップが増えました。

そのまま食べられる加熱済みの「ホクホクあずき」
砂糖を使わず発酵の力で甘味をつけた発酵あずき

2015年世界で初めて取得した小豆グローバルGAPは、海外進出も視野に入れてのことでしょう。商品化する際に付けたブランド名は「モリタビーンズ」。豆に特化していることをアピールしながらも、海外の人にもわかりやすい欧文を使用しています。「森」という漢字がデザイン化されたロゴマークは、楕円の豆のフォルムを生かし、キラキラと輝くさまを表現しています。

デザイン化された小豆のパッケージで国内外へ

里絵さんは「今が楽しい」と言います。子育てや家事もしながら、農作業、そして社員やパートさんたちの育成、事務仕事、ホームページ作り、商品発送、その中での商品開発。時間がいくらあっても足りないのでは?
「頭を使う仕事と肉体を使う仕事の両方ある方がバランスが取れると思う」

体を使う仕事と頭を使う仕事のバランスがあるから「楽しい!」

はて? 実は私も同じようなことを考えていました。デスクワークだけの日もありますが、近隣の生産者さんの農作業を2~3時間手伝う日もあります。農作業をしている時は、無心の時もありますが、デスクワークの頭の整理をしている時もあります。整理されているからデスクワークの時にひらめきがあったり、別な目線や考え方ができると感じています。

今年も新豆を取り寄せ、ゆっくりと手間をかけて小豆を煮よう。元気な“農家のかあさん”の顔になった里絵さんを思い浮かべながら。

久々に煮た粒あん
粒あんを仕上げる前に、硬めの状態を取り出してサラダ用にします

プロフィール
吉川雅子(きっかわ まさこ)
マーケティングプランナー
日本野菜ソムリエ協会認定の野菜ソムリエ上級プロや青果物ブランディングマイスター、フードツーリズムマイスターなどの資格を持つ。

札幌市中央区で「アトリエまーくる」を主宰し、料理教室や食のワークショップを開催。原田知世・大泉洋主演の、2012年1月に公開された映画『しあわせのパン』では、フードスタイリストとして映画作りに参加し、北海道の農産物のPRを務める。

著書
『北海道チーズ工房めぐり』(北海道新聞出版センター)
『野菜ソムリエがおすすめする野菜のおいしいお店』(北海道新聞出版センター)
『野菜博士のおくりもの』(レシピと料理担当/中西出版)
『こんな近くに!札幌農業』(札幌農業と歩む会メンバーと共著/共同文化社)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2383/

2025年2月18日号 (通算24-47号)

農業経営レポート

“Seek out innovators”Ⅴ 
~今まで不可能と言われた「網走」でのコメの生産!~を掲載します。

筆者の梶山氏は元農水省職員。現在は、千葉県で一般社団法人フードロスゼロシステムズ代表理事、行政書士として活躍中。なお、この文章は、筆者個人の見解であり当財団の公式見解ではありません。 それでは、ここからレポートになります。



レポート:梶山正信

Ⅰ はじめに

2022年、北海道で先駆的に水無し乾田直播にチャレンジしている共和町の合同会社ぴかいちファームの農業経営者の山本耕拓(やまもと たかひろ)さんを取材した。このチャレンジを山本さんが行ったのは、網走市において畑地でのコメの生産に2018年から取り組んでいる福田稔(ふくだ みのる)さんの存在があったからだという。
そこで、今回は原点とも言える網走市の福田さんのもとを訪ね、その取り組みの経緯や思いの丈を伺った。福田さんは自分自身の農業経営において、本当にやりたいことは何なのか?と疑問を持ったという。そのきっかけとなったのは、当時福田さんが網走青年会議所の役員だったことが大きい。上部団体の網走青年団体連合会の農業以外のメンバーと交流する中で、多様な刺激を受けたからだったという。

それまでの福田さんは、農産物を作ることが専業。それは収益をあげる手段だと気づいたのだ。加工原料となる作物では、農産物の作られる過程やその意味を伝えることもできなければ、感想を受け取ることもできないのだ。そこで、今作っている農産物では無理でも、コメならそれができるのではないかと考え「網走で生産したコメを、地元の全ての子供たちに食べてもらう!」ことを目標に、網走では全く行われてなかったコメの生産を2018年から自ら一人で、しかも手探りで始めたのだった。
福田さんが畑地でたわわに実ったななつぼしを見ながら、一言一言、思いを込めてお話されると、私自身自分の志の大切さに改めて気付かされる取材となった。

経営者の福田稔さんと農場入り口の看板写真:写真筆者
Ⅱ 福田さんのコメの生産の取組について
1.福田農場の概要とコメの生産の経過

福田農場の営農を遡ろう。この地のほとんどが本州からの入植で始まるが、福田さんも同じだ。しかし、福田さんの名刺には大きく“3代目”と記されている。現在の場所での営農は曾祖父が養子に入ったころからだそうだ。それゆえの“3代目”なのだ。
福田さんは1981年6月生まれ。2002年に北海道立農業大学校を卒業後、生家の農業経営に従事した。現在の経営は、麦類(13ha)、ビート(13ha)、でんぷん芋(13ha)、ゴボウ(0.5ha)、コメ(1.2ha)等の合計約42haを輪作で作付けしている。作業は、福田さん夫婦と両親の4人でやっているが、繁忙期の9~11月は特定技能で就業している2名の従業員を加えて行っている。

~コメの生産の経過について時系列まとめ~

①2018年
コメ農家との伝手、接点がなかったことから、ネット販売で茨城県のもち米品種種子を入手。畑の一角、2列(0.5m×2m)の極小面積で初めて作付け。出穂はしたものの不稔で実は入らなかった。

②2019年
陸稲のうるち米品種を同様に作付け。モミはついたものの、不稔で実は入らず収穫には至らなかった。

③2020年
これまでの取り組みでの経験から耐寒性の高い品種である「ななつぼし」に変更を検討。折よく農協から20㎏の種子を購入することができた。2018年から使い始めた菌根菌(マイコス)、ビール酵母を使い、乾田ドリル播きで7aほどの作付けを行った。これが功を奏したのか初めてコメの生産に成功。しかし、コンバインもないので手刈りしたものの、作業が追い付かず、手刈りができない大部分をそのまますき込んでしまうことになった。

④2021年
青年会議所の委員長に就任したことを契機に、プロジェクト事業として本格的に取り組む決心を固めた。今まで網走では不可能だったコメを作って子供たちに食べさせるプロジェクトを円滑に進めるために、従来から資材利用で付き合いのあるビール酵母資材の製造元であるアサヒバイオサイクル(株)に相談し、協力を得ることができた。この事業にはアサヒバイオサイクルも積極姿勢を見せ、技術的な支援やプレスリリースなど側面支援をも受けることができた。
その結果もあり、2021年には広さ9aのほ場で本格的に生産することができた。もっとも、コメに適したコンバインがまだなく苦労することになった。しかし、少量といえども初収穫だ。子供たちと一緒に水田のななつぼしとの食べ比べの企画も実施できたのだった。

⑤2022年
17aに作付け面積を拡大。さらに中古の自脱型コンバインを購入。ついには、畑地にも関わらず1,290㎏の「ななつぼし」のモミを収穫することができた。しかしながら、コメの乾燥施設がなかったため、収穫後のコメにカビが発生し、残念ながらそれを全て廃棄することになってしまった。

⑥2023年
前年の苦い経験を活かし、コメ用の乾燥機も昨年の自脱式コンバインに加え購入。設備としては、立派な「稲作農家」となった。そして、面積をさらに増やし、22aの畑地で栽培を実施。収穫後の「ななつぼし」は14.5%の水分量に乾燥させ、1,330kgのモミ付きのコメを生産することができた。以前から依頼のあった飲食店に400kg弱の「おコメ」をついに販売できたのだった。

⑦2024年
栽培品種は「ななつぼし」を昨年に引き続き選定。作付け面積を1.2haと、一気に前年の約5倍もの面積に広げた。取材後の10月13、14日に収穫予定だが、この状況であれば5トン程度の収穫は見込めるだろうとのことであった。

福田さんのこれまでの長い取り組みの経過を列記してきたが、栽培のきっかけとなったのは2018年に麦類の生産において、初めて菌根菌(マイコス)やビール酵母を利用したことにある。これらの資材は麦や芋類の種子等に良い影響があるとは聞いていたが、ひょっとするとコメにも良い影響があるかも、という程度の気持ちだったという。
2018年から畑地でのコメの生産の取り組みを始め、失敗しながらも毎年改善をしてチャレンジをし、年々面積を広げ、個人で必要な機械を中古で揃えながら、ということを重ねてきたのだ。本当に地道に取り組んできたことを今回の取材で私は初めて知ったのだった。
だが、私の本心から言えば、このように、数字としての経営では全く儲からないようなコメ作りにここまで取り組んでこられたのは、やはり「網走で生産したコメを、地元の全ての子供たちに食べてもらう!」という目標の強い意志、つまり揺るぎないその志があるからだと思えた。福田さんから直接話を聞いていても、正直、それ以外考えられなかったのだ。



今年の福田農場1.2haの畑地でのコメの生育状況写真:写真筆者

2.その志はどこから来るのか?

私が福田さんの姿勢に強く惹かれたのは、共和町の山本さんやアサヒバイオサイクルの上籔氏からの話だけではない。
2023年に生産したななつぼしを購入した飲食店店主の伊藤勇太さんからもお話を伺った。福田さんと伊藤さんは網走青年会議所での仲間同士だ。福田さんがコメ栽培にチャレンジしても、全く成功しない、生産できないことを伊藤さんは知っていたのだ。それにもかかわらず、伊藤さんはコメが生産できたら絶対に自分の店で出すので売って欲しいという話をしていたのだった。料理のプロである伊藤さんもコメに挑戦する福田さんの志に強く共感を覚えたのだ(伊藤さんは、2023年12月に菜ご海(なごみ)という飲食店を網走駅前に開店)。
私も今回、絶対に福田さんのななつぼしを食べて帰らないと取材に来た意味がないと考えていた。取材初日の夜に菜ご海を訪問し、土鍋ご飯を注文した。ちゃんと適した炊き方をすれば、畑地でも水田で生産されたななつぼしと遜色ない食味だと感じた。

 



土鍋炊きのななつぼし:写真筆者

2023年の収穫後、乾燥調整した1,330kgのお米のうち約400kgを伊藤さんの菜ご海(なごみ)に販売した。私は、経営論からするとまずそこの出口戦略の構築が一番にあるべきだと話したが、福田さんは意識はしていると言うものの、やはり一番はコメの販売ではなく自分の志だと言う。つまりそれは、網走市全ての学校給食でコメを供給することなのだ。そのためには年間26トンが必要だそうだ。福田さん一人では無理かもしれないが、それに向かってこれからも全力でコメに取り組む意志を強く感じた。
2023年度、福田さんが網走市内の学校給食に提供したのは、スポットでの70kg程度だけだったが、目標は網走市内全ての学校給食へのコメの供給である。2024年産が5トン程度の収穫見込とのことであるが、飲食店等からの引き合いが3トンほどになる。しかし、それは福田さん自身の本当の目標ではない。バリューチェーンを構築しつつ、必要となる年間26トンの全ての網走市内の学校給食へのコメの供給を目指している。この網走の地では困難な収穫や乾燥施設の増強の戦略をも考えているのだ。過去に青年会議所の委員長も務めたことから、地元関係者の信頼も厚く、地元農協とも協議を行っているようだ。何しろこのイノベーションに現状では制度が追い付いてないのが実態なのだ。これから新しくルールを作り、各種制度を確立していく中で、福田さんの取り組みが本当に達成されることを、私も強く望みたい。

この1.2haの作付け地の横には、「NPOじっとく」という子供の活動をサポートする団体の取り組みで、子供たちが自分たちで種まきした、ななつぼしや大豆、サツマイモ等が植えられていた。これが福田さんの言っている農産物が直接消費者につながる取り組みであり、それを子供たちが実際につながっているということだ。今ここですでに実現できていることが本当に素晴らしいと感じた。


子供たちが種まきしたななつぼし等

3.将来の自分の農業経営はどのようにしたいのか

福田さんは、今後、福田農場を株式会社化する計画があるという(※取材当時。現在は、法人化されている)。そしてコメの面積は近隣のやる気のある農家とともに徐々には拡大する予定ではあるものの、自分自身の耕作面積を積極的に拡大する意向はないという。規模拡大すれば、それだけ人材確保等に自分のリソースが削がれる。それにより自分のやりたいこと、目標への道が遠くなると考えているのだ。自分の農業への取り組みに対して、単純な規模拡大は本末転倒だと意識されていると感じた。
現状では、積極的な規模拡大の意向はないものの、共和町の山本さんのところも、あるいは日本全体の課題として、高齢化等での離農が徐々に進んでいる。福田さんは農業委員会の委員という立場からも、地域での役割は果たさなければならないと話していた。自分の経営全体としての戦略と整合のないまま規模拡大を行うと、過剰な投資で自分の経営の首を絞めることにもなりかねない。トータルでの営農の全体戦略を構築した上での農業経営を自分の志とともに両立させる、いわゆる経営学でいわれる「両利きの経営」のセンスがこれからの農業では求められると強く感じた。

福田さんには、これまでの長い苦難の取り組みを失敗しても諦めず、地道に重ねてきたことをベースに「網走で生産したコメを、地元の全ての子供たちに食べてもらう!」という志がある。これからも福田さんのモチベーションを鼓舞していくだろう。そして、まわりの多くの人がそれに共感して新たなチャレンジに果敢に取り組んでいるのを見ると、福田さんの志は本当に凄いと感じ入ってしまう。北海道のチャレンジ精神旺盛な人がたくさんいる中でも、特に稀有な存在ではないかと感じた。
なお、冒頭で網走青年会議所の委員長時代に、交流する多くのメンバーから農業以外での多様な視点での刺激を受けたと書いたが、現在は網走ライオンズクラブにも入って、積極的に農業以外の経営者と交流を持っているという。

今後の目標に対するロードマップ、つまりどのように次の戦略を考えているかを確認したところ、福田さんの成功を見て、近隣の若手農業経営者が畑地でのコメの生産に取り組む意欲のある人が出てきているという。そのためには、自前の乾燥施設が現在の生産レベルで既に限界になっていることから、それを地域で解決し、地域における集団での生産も視野に入るであろう。年間26トンのコメの生産も将来的には可能になると私は考える。
勿論、それは数年のうちに必ずできるとは思わない。しかし、共和町の山本さんもそうだが、福田さんもまだ40代である。そう遠い未来の話ではなく「網走で生産したコメを、地元の全ての子供たちに食べてもらう!」という目標をきっと達成するであろうと強く感じて、今回の福田農場への取材を終えた。

Ⅲ あとがき

今回、福田農場にお邪魔したのは、2022年から北海道で先駆的に水無し乾田直播にチャレンジしている共和町の山本さんを取材したことがきっかけである。それは「あの網走で、福田さんが畑地でのコメの生産に成功したと聞いて、水田でコメを作る自分たちは、今すぐにとにかくチャレンジしないと大変なことになる!」という猛烈な危機感を取材で聞いたからだ。

私も、福田さんから現場でじっくり話を聞き、改めて自分が起業するに当たっての志に気付かされた取材だったと最初に書いた。これからも決してそのことを忘れることなく、チャレンジする農業経営者とともに、仕事ではなく『志事』として経営戦略をベースに、これからも農業の現場に『志』を持って立ち続けるつもりである。

梶山正信
一般社団法人フードロスゼロシステムズ代表理事(特定行政書士)

筆者プロフィール
 1961年生まれ 
 2021年まで農林水産省に勤め、現在は一般社団法人フードロスゼロシステムズ代表理事、特定行政書士として活躍中
 2023年からは、早稲田大学招聘研究員として、カーボンニュートラル、地域活性化等を学んでいる

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2369/

2025年2月12日号 (通算24-46号)

スペルト小麦と美味しい牛の関係

*今回の「WEB版HALだより」は、昨年大変好評だった、農業とは縁のなかった写真家・藤田一咲(いっさく)さんに、北海道農業の現場を見てもらい話を聞く企画の第2弾の2回目です。今回もHAL財団・上野貴之が聞き手となる対談形式でお届けします。私は敬愛の気持ちから、今回も一咲さんと呼ばせていただきます。

(HAL財団 企画広報室 上野貴之)

小麦の生産量日本一は?

●上野:一咲さんは毎朝パン食でしたね。パスタもお菓子もよく食べますよね。その原料は何でしょう?
★一咲:それは難しい問題、なわけないでしょう! 小麦粉ですね!
●上野:そうです、小麦粉はさまざまな食品に使われている。それはどこで作られているでしょう?
★一咲:そういえばロシアとウクライナの戦争により、小麦不足のニュースを見たような。
●上野:小麦の主な生産国は中国、インド、ロシア、アメリカ。日本は小麦の輸入大国で、国内での需要量の約9割を外国から輸入しています。ほとんどがアメリカ、カナダ、オーストラリアからの輸入なんですよ。
★一咲:あら? 今回は北海道で小麦を作っているという話ではないのですか?
●上野:作っていますよ。前回のそばも全国1位だけど、北海道の小麦収穫量も全国1位。米の収穫量より多いんですよ。
 北海道は気候が冷涼で降水量が少ないので、小麦の栽培に適していて高品質な小麦が生産されています。

農業データメモ
 令和5年産そば収穫量 全国3万5,600トン 北海道1万3,700トン(国内生産の38%)
 令和5年産小麦収穫量 全国100万4,000トン 北海道71万7,100トン(国内生産の66%)
 令和5年産主食用コメ収穫量 全国661万トン 北海道47万5,900トン(国内生産の7.2%)

★一咲:北海道では小麦が広く栽培されているんですね。そういうイメージはちょっとなかったな。
●上野:そうかもしれないですね。というのは、北海道で今見られるような大規模な小麦産地としての歴史は、1970年代後半の農業政策として小麦が推奨されたことから始まりますからね。
★一咲:まだ50年くらいの歴史なんですね。でも、これだけ需要がある作物なのに自給率が低すぎませんか?
ロシアとウクライナの例からでも簡単に想像できますが、世界の小麦の産地で紛争が起こったり、気候変動で干ばつになったら、不作になって輸入ができなくなることもありそうですよね。そうでなくても、小麦粉の価格が高騰するとか。ぼく自身もそうですが、小麦の重要性は米よりもほとんど知られていないのでは?
●上野:重要性どころか、北海道の小麦の認知度も低いのが現状かもしれませんね。
★一咲:そばと同じような状況でしょうか。北海道の小麦の種類やブランドもいくつもあると思いますが、まったくわかりません。
●上野:北海道には、パンが作れる国産小麦として人気のある〈春よ恋〉や、道内の秋まき小麦の作付け面積の9割を占めている、白さときめの細かさが特徴の〈きたほなみ〉、国産初の超・強力粉の〈ゆめちから〉などがあります。
一咲さんも感じたように、日本国内、国外の小麦の状況の認知度を高めること、また、生産量の向上や安定化、ブランド化などが、北海道産小麦をこれからもさらに発展させていくために必要なことでしょうね。
★一咲:そばの取材でも思いましたが、日本一だから現状を維持するのでいい、という感じがどこかします。日本一を維持するのも大変だとは思いますが、これ以上は何もできない、限界というわけでもないように思います。
 金儲け主義みたいなのはちょっと嫌な感じですけど、北海道の農家はもっと貪欲になってもいいのでは? そば商人とか、小麦商人と呼ばれるような農家さんがいてもいい。経営者意識がどこか薄いのかな。
●上野:一咲さん。まさにそこなですよ。私たちHAL財団は以前の名称は北海道農業企業化研究所と言い、農業の経営の部分を専門に調査研究する団体なのです。北海道に限らないのですが、農家の高齢化や離農よりも経営者意識というのが大きな問題を孕(はら)んでいると思います。これだけ物価が上昇しているのに、農作物は低価格のままなんですから。
今日の取材先の本別町にある福田農場は、その辺も含めて、北海道農家の在り方、北海道農業の未来をしっかりと考えています。福田農場は主に美味しい牛を育てている農場ですが、今日はスペルト小麦の畑を取材します。

本別町美蘭別にある福田農場のスペルト小麦畑。スペルト小麦とは古代種の小麦のこと。
小麦生産量日本一を誇る北海道でも生産量はかなり少ない品種。一般的な小麦よりも背丈が高くたくましい姿が特徴。
たまたま収穫の日に訪れることができました。
収穫するスペルト小麦の状況を見る福田農場の福田博明さん。表情は真剣だが、その目には満足感も漂っていました。
手の平の上のスペルト小麦に福田さんはどんな未来を見ているのだろう。

ビオ(有機)のこと

●上野:一咲さんはスペルト小麦を見たことはありますか?
★一咲:毎度お恥ずかしい話ですが、スペルト小麦という名は聞いたことはあるのですが、どういうものか知りませんし、見たこともないです。
●上野:名前は知っていました?
★一咲:パリのスーパーなどで、“BIO[ビオ。フランス語のビオロジック(オーガニック、有機)のこと]”と表示があるクッキーやパンなどの成分表示にスペルト小麦があるものを見かけていましたね。
●上野:スペルト小麦はフランス語でもスペルトという名称ですか?
★一咲:スペルトはスイスのスペルツから来ているような気がしますが、フランス語ではエポートルですね。日本ではなぜかエポートフと呼ばれているのも見かけますが。イタリアではファッロ、ドイツではディンケルかな。
●上野:日本では有機栽培、オーガニックというと特別なものという感じがありますが、ビオはよく見るものですか?
★一咲:ビオはよく見ます。普通に日常生活に溶け込んでいます。ビオは野菜や果物だけではなく、肉、卵、乳製品、はちみつ、ワイン、お菓子などもあります。ちなみに、フランスではビオ製品には「AB(アグリキュルチュール・ビオロジックの略。フランス農務省認可の有機栽培)マーク」、ヨーロッパ全体では欧州認可の「ユーロ・リーフマーク」が付いていたりします。
●上野:やっぱりヨーロッパはオーガニック製品に対する意識が高いんですね。北海道でも農薬や化学肥料をなるべく使わずに作物が元々持つ力を生かした作物作りを目指す農家が増えています。その背景には、化学農薬使用量の50%低減や輸入原料、化石燃料を原料とした化学肥料使用量の30%低減、耕地面積に占める有機農業の取組面積割合25%(100万㏊)への拡大などを目指す、農林水産省が令和3年5月に策定した「みどりの食料システム戦略」があったりもしますが。
★一咲:なるほど、色々な理由や背景があるのですね。
●上野:できるだけ自然本来の状態で作る方法を取り入れている方が増えてきました。
★一咲:それは環境を守っていくことにもなりますね。
●上野:自分の暮らす地元の、ひいては国や地球の環境を守り未来に繋いで行く。
★一咲:いわゆる持続可能な開発目標(SDGs)にも繋がるようですね。それにしても、本来の自然の状態、と一言で言っても実際には難しくないですか?
●上野:難しいです。それを今から20年以上も前に始めたのがこれから行く福田農場。

収穫時期に入ったスペルト小麦の色はベージュよりも、茶色に近い印象。
力強くいかにも古代から今日まで品種改良、遺伝子操作を受けずに生き続けてきた種の姿をしています。
一般的な小麦よりも穂は大きく長く、籾殻は見るからにとても硬そうです。
スペルト小麦の栽培は古代種だと言っても、種を蒔いておけば、後は何もしなくても勝手に育つわけではない。
大変な苦労がある、と満面の笑顔で語る福田さん。
同行の渡辺陽子アナウンサーは「いい作物を作る人は笑顔もいい」と話していました。

スペルト小麦畑にて

●上野:一咲さん、私も初めて見るスペルト小麦ですが大きいですね。
★一咲:背丈は140〜160センチメートルくらいはありますね。茎も太く、穂も長く太い。ヨーロッパでもこれは見た記憶はないです。
●上野:スペルト小麦は古代小麦のことで、現代で幅広く利用されている普通小麦の原種です。スペルトは日本語で「籾殻(もみがら)」という意味。その名の通り、殻に大きな特徴があります。殻は厚く硬い。ゆえに鳥や昆虫などから穀粒を守るのです。
 また、栄養素が表皮と胚芽に含まれる普通小麦と異なり、スペルト小麦の栄養素は穀の内側に豊富に含まれています。普通小麦では製粉工程中に栄養素の多くは除去されますが、スペルト小麦では精白した普通小麦に比べ、マグネシウム、マンガン、亜鉛といったミネラル成分が非常に豊富なのです。
★一咲:古代っていつ頃ですか?
●上野:確かなことはわかっていないですが、一説では9,000年くらい前といわれています。そのころから、人工的な品種改良を経ていない穀物なんですよ。
★一咲:福田さんからここのスペルト畑の広さは11ちょう、と聞きましたが「ちょう」とは?
●上野:ちょうは、農家さんと話していると、今も普通に使われる日本古来の農地の計量法、尺貫法(しゃっかんほう)の単位の一つですね。
最近ではぼくも慣れましたが、最初は一生懸命計算したり、農家の方にそれって何平米ですか?と訊いていました。特別にレクチャーしますね。歩(ぶ)・畝(せ)・反(たん)・町(ちょう)の町。一咲さんも「反」は耳にしたことがあるでしょう。1歩=1坪、1畝=30歩(1アール)、1反=300歩(10アール)、1町=3,000歩(100アール=1ヘクタール)だから、11町は11ヘクタール。農業に馴染みがない一咲さんには、ヘクタールでも広さの実感がないだろうなあ。平方メートルでは1町=110,000㎡。もっとわかりやすく言うと、ここの面積は東京ドーム(4.7ヘクタール)2個分とちょっとにもなるんですよ。
★一咲:そこまで言われなくても、実際に見ればここがいかに広いかはよくわかります!
●上野:福田さんのスペルト小麦は、ハンバーガーのバンズ(パン)などにも使われています。生産をもっと増やして欲しいという声はあるそうだけど、手間もかかるし、他の作物や牛もいるので、この広さが限界のようです。
★一咲:スペルト小麦は見るからに現代の小麦と色も形も違い、背丈の高さも古代の野生の穀物という感じですね。どんな環境でも手間がかからず、種を蒔いておけば勝手に育つみたいなイメージですが。
●上野:家庭菜園ではそういう話もありますが、福田農場くらい大きな畑になると大変なようですよ。
★一咲:どんな難しさがあるのか想像もつかないです。
●上野:古代穀物だから丈夫というわけではなく、生育環境によっては病気には弱いという側面もあります。また、収穫時期の湿度が高いと、穂から芽が発生することもあるので、風通しの良い畑にするための種のまき方や、背丈が高いので倒れやすいなど畑の管理が難しいと言われています。
さらに、脱穀の際にも、籾(もみ)が固く外れないので籾すりという手間も加わります。収穫量も一般的な小麦に比べ少ないのですよ。それでも他の小麦では得られない味や栄養価の高さがあるし、小麦アレルギーも発症しにくいのだとか。
★一咲:こんなに元気に育って収穫を迎えているのを見るとこちらも元気になりますね。
●上野:スペルト小麦を含め、福田農場の作物が元気なのには理由があるのです。

スペルト小麦の背丈は140〜160センチメートルくらいにもなる。
その背丈の高さに比例するような穂の長さ、太さに驚く。
だが収穫率は普通の小麦よりも低く手間がかかる。
風味が良く高栄養価、小麦アレルギーの発症を抑える特徴があるのだそう。
殻は非常に硬いため、脱穀の後に籾すりという作業が発生する。
また一般的なロール式の製粉機では、含まれる栄養成分が熱で損なわれるため気を配る必要があるのだとか。
スペルト小麦が高価な小麦粉になるのもよくわかります。

全ては土づくりから

●上野:一咲さん、ここの土を見てください。
★一咲:黒々としていますね。いかにもいい土という感じがします。そういえば、ここまで来る途中で見かけた土には、今年の暑さや降雨量の少なさのためか、少し乾いた感じがしたところがあったのとは対照的です。
●上野:そうでしょう。福田農場は土づくりに力を入れているのです。
★一咲:でも福田農場のメインは牛と聞いたような? 土と牛の関係とは?
●上野:福田農場のメインはもちろん牛。黒毛和牛とホルスタインの交雑種を約1200頭飼育していて、自社ブランド牛〈美蘭牛 福姫〉が主生産物です。畑はスペルト小麦の他に、納豆用の大豆、肥料作物、牧草や家畜用デントコーンも育てています。広さにすると100ヘクタール、一咲さん向けに言うと東京ドーム21個分以上ですね。牧場と畑作を両方手掛けている農場で、この広大さはとても珍しいです。
牛に食べさせる作物も自分のところで作っていますからね。美味しい作物を食べた牛は美味しくなります。そして、その美味しい作物はいい土から作られているわけです。
★一咲:全てはいい土から始まるんですね。
●上野:ここで言う、いい土というのは、農薬や化学肥料を使っていない、自然本来の土ということです。ミミズや微生物が住むようなね。福田さんはそこに気がつき、20年以上の歳月をかけてここまで良質な土づくりを行ってきました。福田さんはこれを“土の修復”とも言っています。
★一咲:化学肥料や農薬を長年使ってきた土の方が土壌が改善されて良質というわけでもないんですね。
●上野: そうですね。もちろん、現在では化学肥料だけで土づくりをする農家はありませんが、過去の負の遺産というのでしょうか、化学肥料や土壌改良剤に過度に頼った農地は、特定の作物にはいいですが、他の育てたいものが育ちにくくなる傾向があります。土壌構造などにも影響があり、土地の保水能力も低下し、干ばつなど環境の変化にも弱くなります。福田農場の土も以前はそんな状態だったらしいです。
 今は多くの農家がそこに気づいて、しっかりと合理的な土づくりを行っていますが“土の修復”には時間がかかるのです。福田農場は、牧場がメインなので豊富な堆肥があるのが強みでしょうね。ここでは、牛たちのふん尿と木屑を合わせた堆肥にさらに枯草菌を混ぜ込んで、4~5年かけて熟成発酵させることで、より質の高い肥料を作っています。この肥料が土の中の微生物を活発にし、土を元気にしているのです。この肥料は国の堆肥登録がされていて、〈美蘭別の土にこだわる農家が作った肥料〉という商品名で販売されています。また、令和5年度全国優良畜産経営管理技術発表会の畜産経営部門で優秀賞の「畜産局長賞」も受賞しています。
そして、この肥沃な土から収穫した様々な作物を中心にした乳酸発酵飼料を牛に与えることで、健康で美味しい牛に育つのです。土が元気になれば、作物も牛も元気になるというわけです。
★一咲:土づくりは肥料づくりでもあるんですね。福田農場では肥料・飼料・作物全てが循環しているのですね。素晴らしい!でも、元気な土にするには膨大な作業量、時間がかかりますよね。
●上野:その取り組みに20年以上かけた福田さんによると、まだまだその途上にあるようです。
★一咲:昨日の新得町のはら農場のそば畑といい、今日の福田農場といい、今回の取材のテーマは「土づくり」ですね。
●上野:ははは、わかりましたか? いい土づくりには北海道農業の明るい未来の一端があると思っています。
おお! スペルト小麦刈り取り用の日本最大級のコンバインが到着しましたね。一咲さんも乗ってみてください。

これはドイツにある欧州最大規模の農業機械メーカーのコンバインで、コンバインハーベスター(複式収穫機)と呼ばれるもの。
日本では最大級のコンバイン。穀物の刈り入れから脱穀・選別を同時に行うことができる。
乗り心地はとてもいい。
スペルト小麦の殻は非常に硬く、脱穀しても殻が外れないため、脱穀の後に籾すりという作業が発生する。
また一般的なロール式の製粉機では、含まれる栄養成分が熱で損なわれるため製粉にも気を配る必要があるのだとか。
このコンバインはパワーもありハイテクで快適。運転は株式会社 石山ホールディングスの石山治臣(ハルオミ)さん。
若い人が農業に従事している姿を見ると心強くなる。

デントコーン畑にて

●上野:一咲さん、ここまで来たのでスペルト小麦畑の隣にあるデントコーン畑も見ましょう。もちろん、福田農場のデントコーン畑です。
★一咲:デントコーンって何ですか? 
●上野:澱粉(コンスターチ)などにも利用することもありますが、飼料用のとうもろこしのことです。馬歯種(ばししゅ)とも呼ばれます。粒の上のくぼんだ部分がデント(歯)のように見えることから付いた名前だそうですよ。
★一咲:とうもろこしも背丈が高い!
●上野:そして、葉が空に向かってバンザイしていますよね。土がいいからここまで元気に大きくなるんです。普通でも2.5メートルくらいになりますが、まだまだ伸びるでしょう。ここまで大きく育つとうもろこしは十勝でもなかなか見られませんよ。今は時期的に確認できませんが、実もびっしり詰まっています。
★一咲:これも良質な土と、元気な作物を育てる技術のたまものですね。
●上野:牛のために自ら飼料用デントコーンを育てるメリットとしては、デントコーンの高品位化・品質の維持、飼料コストの最小化、経営の安定化などがありますね。
★一咲:牛にも美味しいなら、ぼくが食べても美味しいんじゃないの?
●上野:どうぞ食べてください。固くて歯が折れると思いますが。
★一咲:ポップコーンにします!
●上野:ポップコーンは調理した食品の名前ではなく、そういう名前のコーンの種類です。
★一咲:えええ! それも知らなかった。とうもろこしを炒って爆裂させたもののことかと。 
●上野:とうもろこしはだいたい7種類あって、食用は主にスイートコーンとポップコーンです。
★一咲:だから、スーパーなどのお菓子売り場で、未加工の「十勝産 ポップコーン」があるわけですね。なぜポップコーンの「素」とは書かないのかと思っていましたが、そういうわけだったのか。あと、スナック菓子のミックスナッツの中にジャイアントコーンもありますね。
●上野:一咲さんが知っている農作物はお菓子になっているものが多いね(笑)。ジャイアントコーンという種類のコーンは、ペルーの限られた所でとれるもので日本にはないんです。デントコーンはメキシコ料理のトルティーヤ(薄焼きパン)にも使われていますね。
★一咲:良質な土づくりは、手間暇かかって遠回りなようだけど、農作物、それを食べる牛などの家畜、またそれを食べる人間にも環境にもいい。これからの農業のことを考えると、本当はまずここから始めなければならないかもしれませんね。そうやってできた作物を選ぶ・購入することは、生産者を応援するだけにとどまらず、人と自然が共存し、次世代に豊かな環境と社会を継承するという、持続可能な未来づくりに貢献できる。
●上野:ただ、今のところそうやってできた製品は当然高価になってしまうのです。これは農業だけでは解決できない今後の課題ですね。

福田農場のスペルト小麦畑のすぐ近くにある牛の飼料用のデントコーン畑。
訪れた時のデントコーンの背丈は2.5メートルほど。
これがさらに伸びて3メートル近くにもなるのだとか。実もびっしりに。
収穫後に福田さんが送ってくれたデントコーン。名前の由来通りデント(歯)のような形の粒がびっしり輝いて見えます。
家畜用デントコーンは農家によって早刈りと遅刈りがあり、
福田さんのところでは水分がある程度抜けた状態の遅刈りのようです。
福田さんのスペルト小麦畑で収穫、脱穀されたスペルト小麦の粒。大きくて色が濃い。
聞き忘れましたが、福田さんはスペルト小麦を食べるのでしょうか?
食べるとしたらどんなふうにして食べるのでしょう?


海外ではスペルト小麦を使った食品は少なくありません。上からクラッカー(ラトビア製)。
パスタとスパゲティ(イタリア製)。下は日本国内製のパン。
ぼくが思うには健康上の理由よりも、スペルト小麦のどこかチョコレートのような甘い匂いと、
ナッツのような香ばしい独特な風味と深い味わいの美味しさがいいのだと思います。
パンはもちもち感はないものの、歯切れや口どけは良く、
かむほどに深い味わいを楽しめます。
楽しそうに談笑する福田さんとHAL財団アンバサダーでフリーアナウンサーの渡辺陽子さん。

藤田一咲(ふじた いっさく)
年齢非公開。ローマ字表記では「ISSAQUE FOUJITA」。
風景写真、人物写真、動物写真、コマーシャルフォトとオールマイティな写真家。
脱力写真家との肩書もあるが、力を抜いて写真を楽しもうという趣旨。
日本国内は当然、ロンドン、パリなどの世界の都市から、ボルネオの熱帯雨林、
アフリカの砂漠まで撮影に赴く行動派写真家。
公式サイト:https//issaque.com
写真:ISSAQUE FOUJITA

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2348/

2025年2月4日号 (通算24-45号)

法人化についての情報交換会を開催!

HAL財団に寄せられた「こんなことやって欲しい」という声に応え、昨年12月14日(土)に札幌HAL財団本部セミナールームで法人化についての情報交換会を開催しました。
今回は、あくまでも「お試し」ということで、HAL財団企画広報室が普段お付き合いのある農業法人、個人経営の農家、そして金融機関、税理士事務所、農業を支援するベンチャー企業、弁護士が参加。

はじめにHAL財団企画広報室の上野から道内の農業法人の概況、そして一般的な企業の動向や企業活動についての話題提供をしました。
今回の参加者は、すでに法人として事業活動をしている方、今後、法人化を検討している方などが参加しています。すでに法人化している方からは、経験談を。そして、検討している方からは、疑問や不安点が数多く出され、それに対し、みんなで考え相談するというスタイルで進められました。

今回の情報交換会をもとに、次年度以降もこのような情報交換会を開催したいと考えています。

 企画広報室 上野記

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2342/

2025年1月28日号(通算24-44号)

第20回HAL農業賞受賞者決定

一般財団法人 HAL財団(理事長 磯田憲一) が主催する 「第20回HAL農業賞」について、以下の通り各賞が決定しましたのでお知らせいたします。

今年度は、例年通りの現地調査を行うことができました。多くの候補の中から、選考委員会の厳正な審査を経て、HAL農業賞にふさわしい方々を選出いたしました。

表彰名 受賞者 副賞
HAL農業賞
優秀賞
フロンティアチャレンジ賞
福田農場(網走市) 賞金 50万円
HAL農業賞
優秀賞
地域連携企業賞
株式会社満寿屋商店(帯広市) 賞金 50万円
HAL農業賞
優秀賞
優秀経営賞
株式会社森谷ファーム(北見市) 賞金 50万円
(記載は五十音順)

第20回HAL農業賞贈呈式
日時:2025年3月7日(金) 午後2時~
場所:JRタワーホテル日航札幌 36階 たいよう

会場の都合で冒頭の「贈呈式」(予定:午後2時から2時30分ころ)のみを公開いたします。贈呈式の様子は写真データとしてもご提供可能です。ご希望がありましたら担当までご連絡ください。

~本件お問い合わせ先~
担当 HAL財団 企画広報室
山(やま)、上野(うえの)
e-mail info@hal.or.jp
電話 011-233-0131

第20回HAL農業賞受賞者一覧

表彰名 受賞者 授賞理由
HAL農業賞
優秀賞
フロンティアチャレンジ賞
福田農場(網走市) ベテランの域に達している農場主福田稔さんのたゆまぬ、そして果敢なチャレンジに注目し表することにしました。

  • 今まで手掛けていた農産品は、そのほとんどが「加工用の原料」だった福田農場。消費者から「美味しい」と言われたいとの思いから果敢に稲作にチャレンジしている。
  • 畑地での稲作は、技術や制度面でまだ多くの課題を有するが、今後水稲農家の大幅な減少が予想されているなかで安定的な食料米を確保するための新たな技術として注目を集めている。
  • 福田氏のチャレンジは地域の農業者だけではなく、行政機関や漁業関係、商工関係者にも刺激を与え、学校給食や飲食店で網走産おコメの提供を実現させた。
HAL農業賞
優秀賞
地域連携企業賞
株式会社 満寿屋商店(帯広市) 地元農業者と連携し、地域と一体となった経営を実施している点に対し価値あることと認め、それを表することにしました。

  • 北海道内の製粉事業者と連携し小麦の品種改良を強く後押し。2012年からは、本支店6店全店の全商品で十勝産小麦100%のパンを製造。小麦のみならずパンの要である「酵母」も十勝産(とかち野酵母)を使い、調理パン、菓子パンに入れる豆、チーズ・クリームなどの乳製品、牛肉なども十勝の農業者が作ったものを使っている。
  • 原料生産者である農家、農業従事者にとっては、自らが作った小麦などの原料が最終製品となり、それを消費することで「味」「価値」を感じることにつながっている。
HAL農業賞
優秀賞
優秀経営賞
株式会社 森谷ファーム(北見市) 自社の安定的な経営とともに、地域産業をけん引する経営を評価し、優秀経営として表することにしました。

  • 自社の経営だけではなく、環境や地域にも目を向け地域全体として農業を発展させていくことを念頭に経営を実践している。
  • 地域産品である白花豆の生産、販売のみならず、農場に白花豆をメインとするカフェを作る目標があり「留辺蘂の景観」を楽しむ地域一体型の農業を目指している。
  • 所有している森林(山林)でカーボンオフセットを無理なく達成することを検討。地球環境に負荷をかけない農業を次世代に繋いでいく活用資源として森林との共存を視野に経営を行っている。
この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2336/

2025年1月21日号 (通算24-43号)

動画版WEB版HALだより 「たのしむ つながる」 十勝で語る北海道農業を公開します!

2006年第2回HAL農業賞を受賞した「十勝しんむら牧場」の代表取締役である新村浩隆さんと、2013年第9回HAL農業賞を受賞した「前田農産食品」の代表取締役である前田茂雄さんとの対談をまとめました。

お2人は、独創的な経営スタイルで注目を集めています。ともにHAL農業賞を受賞したお2人が今考えていること、そしてこれから先、何を目指しているのか。北海道農業について語ってもらいました。

URL
(全編) https://youtu.be/jR3PIjbQPJ4
(チャプター1) https://youtu.be/2YRUGR3-FjU
(チャプター2) https://youtu.be/SYWtt_dji7E
(チャプター3) https://youtu.be/C0WFXXYgqGs
(チャプター4) https://youtu.be/xzi03EjBb7o

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2330/

2025年1月14日号 (通算24-42号)

ご飯のプロ お寿司屋さんも注目!

おコメ作りの新しい試みとして、水を入れない、水を極めて少なく、あるいは畑地で従来の「水稲品種」を栽培する取り組みが、ここ数年で注目を集めるようになりました。話題性があるので、一般紙やテレビでも報道されていますが、昨年からは業界紙や道内の農業専門雑誌でも取り上げられるようになりました。

そんななか、今回はおコメ・ごはんのプロとも言える「お寿司屋さん」から乾田直播の現場を見たいという話が舞い込み、実際に共和町のぴかいちファームの山本さんのおコメを見に行ってきました。

今回、私と一緒に現地訪問をしたのは、函館鮨同業会幹事長、北海道鮨商生活衛生同業組合函館支部で理事を務める大門福寿し店主である長谷川さん。

出張で函館に行った折に、最近のおコメ事情をお話したところ「ぜひ見てみたい」とのことで、日程を合わせ共和町のほ場の見学と実際に収穫したおコメの状態を見学。
また、実際の利用者であるお寿司屋さんの観点から「どのようなお米を選ぶのか」など貴重な話を伺うことができました。

今後、観光地函館で畑で作ったおコメがお寿司になる日も近いかもしれません。

企画広報室 上野記

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2321/

2025年1月7日号 (通算24-41号)

2025年もよろしくお願いいたします

2025年がスタートしました。明けましておめでとうございます。
巳年は成長や変化の年ともいわれています。
大きな羽ばたきが見られるのだと期待しています。
私たち、HAL財団の広報チームは昨年も多くの農業現場を訪問してきましたが、今年も北海道農業とともに活動を進めていきます。引き続きよろしくお願いいたします。

さて、新春第一号のお知らせは、HAL農業賞に関するお知らせです。

第20回HAL農業賞選考中

今回で20回目を迎えるHAL農業賞。その第1回選考委員会が2024年12月13日に開催されました。選考委員会には、HAL財団の内部委員(理事長、常務理事、企画広報室長)のほかに外部有識者の委員(竹林孝さん、三部英二さん)、さらにHAL農業賞アンバサダー(渡辺陽子さん、林匡宏さん)も加わり現地調査の報告、候補者について審議を行っています。今月中に第2回目の選考委員会を開催し、月末には第20回の農業賞受賞者が決まる見込みです。
贈呈式は3月に予定されていますが、どのような方が受賞者になるのか楽しみです。

企画広報室 上野記

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2314/

2024年12月24日号 (通算24-40号)

冬の鉢花と言えば

クリスマスイブの公開となった今回のWEB版HALだより。
冬の鉢花と言えば、多くの方がイメージするのが「ポインセチア」と「シクラメン」。

北海道花き振興委員会、北海道花き品評会、鉢花の部実行委員会が主催する「2024北国の鉢花まつり 冬の展示即売会」が2024年11月30日と12月1日の両日、札幌市白石区にある札幌花き卸売市場で開催されました。今回で44回目となるこの展示即売会は札幌市や近郊に住む方にとっては、冬の風物詩の一つ。会場はお目当ての鉢花を求める方で賑わっていました。

メインはやはり冬に向けた花。会場にはたくさんのポインセチア、シクラメン、シンビジューム、デンマークカクタスと冬の鉢花が並びます。これだけたくさんの鉢花が並ぶことはなかなかないので、多くのお客さんで会場はいっぱい。

そして、鉢花アレンジメント講習や壁飾り作りの講習、さらには特別オークションもあり「市場のセリ気分」も味わえるのがこの鉢花まつりの楽しみでしょう。

 企画広報室 上野記

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2303/